文化 あだち野のむかし物語 ずーっと、ずーっと、昔ナイ。No.05-(1)。

■香野姫(かやひめ)明神(2)
夫実方(さねかた)についてのはかない消息を頼りの旅のことです。運が良ければ民家に宿を借りることもできたでしょうが、たいていは野に伏して夜を過ごす苦難の旅が続きました。高い山や深い谷川を越え、道に迷っては高い山に登って道を探す繰り返しのこととて、香野姫は身も心もすっかり疲れ果てておりました。いずことも知れぬ夫の行方、明日も続く旅の事などを思うにつけ、不安と焦りは募るばかりでした。
とうとう山の奥の方に踏み迷ってしまった香野姫は、目を病み疲労と病気で倒れてしまいました。

その時です。どこからともなく白い猪が現れて、香野姫をゆり起こしたのです。はっと思った香野姫は、それが夢でないことを知りました。その猪は、香野姫に「さあ、私の背中にお乗りなさい。」とでも言うように合図をしますので、姫はやれ嬉しやと白い猪の背中に身をゆだねますと、猪は勇んで林を抜け、山を越え、谷川を渡り、坂道を降りて、山奥に二、三軒の人家のある里に出てきました。白い猪は、この里に姫を降ろすと、どこへともなく去って行ってしまいました。

さて、白い猪が美しいお姫様を乗せて来たと言うので、里人は驚き集まって来て病の姫をいたわり、手厚く看病をいたしました。そのお陰で香野姫は漸(ようや)く生気を取り戻しました。無学の山里の里人でも、素直な真心の真実は、だんだん姫にも伝わって、旅の疲れも、目の病も次第に良くなってきました。(6月号に続く)