くらし 特集 医療と介護と家族と時間(2)

とにかく母の介護申請を行わなければならない。役所の担当者によると、判定が出るまでには一か月程度かかるということだ。自宅に戻り、手渡されたパンフレットに目を通す。サービスの種類や利用者負担割合などが書かれている。早速、母にはどんなサービスが必要なのか、費用はどのくらいかかるのか調べてみる。しかし、具体的にどのようなサービスが必要になるのか想像がつかない。判定が出たらケアマネジャーに相談して決めていくしかないようだ。

この時期は、A病院で新型コロナウイルスやインフルエンザの流行があり、面会が禁止されていた。着替えを届けるだけなのに、父は毎日病院に通っている。「どうせ面会できないんだから、着替えが必要なときだけ行けばいいだろ」と言う私の忠告に、「ひょっとしたら顔を合わせることがあるかもしれないから」と返してくる。両親は決して寄り添い合うような夫婦ではなく、どこか距離を感じることがあった。けれど、母が入院してからの父の姿には、父なりの愛情がにじんでいるように思えた。

二月
母の退院調整をするため、担当者と話し合いをすることになっていた。A病院は急性期の医療を担っているため、病状が安定してくれば、ほかの病院などに移らなければならない。スムーズに移ることができるよう、今のうちから受け入れてくれる病院を探していくのである。候補先をいくつか選び、調整してもらうことにした。

父が自宅にやってきた。今日から面会が可能になったので、母に会ってきたのだと言う。母の様子について尋ねると、表情が少し曇った。「少しボケたかもしれないな。あまり会話にならないんだ。リハビリをしていけば改善するって看護師さんは言っていたけど」と力なく答える父の言葉に、医師から言われたことを思い出した。「身体的・精神的ストレスから出現するさまざまな症状…」。私はできるだけ表情を変えず、週末に面会に行くと伝えた。

病室で横たわる母を見て思わず息をのんだ。まるで生気がなく、自分の息子が来ていると認識できていない。「母さん。○○だよ。面会に来たよ」という私の呼びかけに「あぁ、○○か」と応えるものの、宙に視線を放ったまま何かブツブツとつぶやいている。私は母の手を握りながら、耳元でリハビリを頑張っていこうと告げた。

長男の大学受験に同行するため、しばらくの間、都内に滞在することになった。母のことが気になるが、長男にとっても大事な時期だ。何事もないことを願いながら、母のことは父に任せることにした。
夜、宿泊先で私のスマホに着信が入った。画面にはA病院の電話番号が表示されている。恐る恐る出ると、病棟の看護師からだった。聞くと母が服薬を拒んでいるという。私と話をしてからでないと飲まないと言っているので、話をしてもらえないかということだ。母に代わってもらい、なだめようと試みるが、高次機能障害の症状も出始めている母には通じない。それどころか今から病院に来てほしいと言ってくる。長男の付き添いで都内にいることを伝えると、母の声が静まった。「●●の受験なんだねぇ。それは大事なときに悪かったねぇ。私は大丈夫だから、頑張るように伝えておいてね」。意識がはっきりしない中でも、孫を思う気持ちが残っていることに、胸が詰まる思いがした。

後編(「広報みと」3月号)に続く