- 発行日 :
- 自治体名 : 茨城県かすみがうら市
- 広報紙名 : 広報かすみがうら No249 2025年12月号
■梵鐘(ぼんしょう)の天女像から
市民学芸員 谷川 峯子(たにかわ みねこ)
桜川市真壁には、鎌倉時代から梵鐘を鋳造する鋳物工房があります。以前、そちらの工房を見学した折に、素晴らしい音色の梵鐘形の風鈴を購入しました。その風鈴の側面には、天女の舞姿が鋳出(いだ)されていました。当時は、装飾的なものであろうと考え、深く気にすることはありませんでした。
ある日、歩崎観音を参詣した際、境内の梵鐘の腹部に、風鈴と同様の天女の舞姿が鋳出されているのが目に留まり、本物の梵鐘にも作例があるのだと、感動を覚えました。また、この梵鐘は冒頭に紹介した鋳物工房の作であることも分かり、驚きました。天女について調べてみると、仏教関連の書物に「弁才天(べんざいてん)・吉祥天(きっしょうてん)で、ともに衆生(しゅじょう)に福徳を与える女神」とありました。私は市内の寺院を巡り、天女像が鋳出された梵鐘はないか、調査をしてみました。すると、市内では加茂地区の南圓寺(なんえんじ)、下土田地区の往西寺(おうさいじ)の梵鐘に、美しい天女像を見ることができました。
市外に目を向けてみると、柏市布施に所在し「関東三弁天」として親しまれる東海寺(とうかいじ)の「布施弁才天縁起」の中には、天女には「仏法の力で、人々に幸福や恩恵を与えて救う力がある」と記されています。また、稲敷市小野の逢善寺(ほうぜんじ)本堂には、松本楓湖(まつもとふうこ)による天女の天井画が描かれています。拝観した折に感じた、妖しいほどの美しさは、今でも鮮明に思い出すことができます。
日本人にとって梵鐘は、古くは『平家物語』の冒頭「祇園精舎(ぎおんしょうじゃ)の鐘の声…」、新しくは童謡「夕焼け小焼け」に「山のお寺の鐘が鳴る…」というようにさまざまな場面で登場しており、馴染みの深いものです。寺院参詣の折には、梵鐘も併せて拝観してみてはいかがでしょうか。
問合せ:歴史博物館
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