くらし なめがた大使小林光恵さん書きおろしエッセイ 五感でキャッチ!なめがた漫遊記第16回

■ファンタスティック!
猛暑続きでため息が漏れでるころプールに行きたくなる。中学時代のプール帰りに自販機でジュースを買って飲んだのを懐かしく思い出し、すかっとすることができるからだ。
しかし、なぜそんなにも懐かしく思うのか、不思議だった。
玉造中学校の生徒だった私は、当時(1970年代)、夏休みに開放される、学校奥にあるプールに通った。プール帰りに自販機でジュースを買って飲む。いつもファンタグレープだ。冷たくて気持ちいいそのビンを握って自販機の専用箇所で栓を抜き、その場でがーっと飲み干し、ビン置き場に置いて、その場を後にしたのだった。
現在、プール帰りに立ち寄る自販機は昔のそれとはデザインがかなり違うし、買うのも水かお茶で、入れ物はペットボトルで、その場では数口しか飲まず、ふたをしてバックに入れてしまう。あの頃を懐かしく思うような部分が見つからなかった。
それが先日、一気に疑問が解けたのだ。住まい近くの洞峰公園内のプールの帰り、先客の幼児が、大人に抱えられて自販機のボタンを押し、商品が落ちる音を聞き喜んでいた。
中学の頃私は、自販機のボタンを押すと待ってましたとばかりに商品が落ちる音が「ファンタスティック!」(ファンタのテレビCМ中のフレーズ。意味や響きが好きだった)と言っているようで、思春期の不安やもやもやが一気に晴れる気がしたものだったのだ。
現在の自販機も、ボタンを押すのと飲み物が落ちるタイミングはあの頃と変わりはなく、プール後の独特の疲労感を覚えながら、その感じを味わうことが、懐かしさをもたらしているのだと思われる。
自販機の飲み物の落ちる音がこわいという友人がいるけれど、私があの音を明るく爽快に感じることができるのは、こんな過去があるからかも。それにしても、すっかり忘れていた。人生、覚えていることより、忘れてしまうことのほうが圧倒的に多いのでしょうね。

■小林光恵さん
行方市出身。つくば市二の宮在住。ビックルボールというスポーツの初心者の練習会に、たまに通うようになりました。このスポーツに、はまりそうな予感。
市公式ホームページ内で「行方帰省メシ」連載中。