- 発行日 :
- 自治体名 : 千葉県館山市
- 広報紙名 : 広報だん暖たてやま 令和七年8月号
■シリーズ 東京湾要塞と館山
(2)加工された写真
[写真1]は、館山湾で漁船を撮影したものですが、どこか不自然に感じないでしょうか。
実は、写真に付けられた紙には「バックの陸地は全部消して天部に雲を書いて下さい」との指示が記されており、本来写っていた陸地を消して、空に雲を描き加えた“加工写真”なのです。
[写真2]は、同じ漁船を撮影した写真ですが、後方に海岸が見え、これらの地形を意図的に消していることが分かります。
この2枚の写真は大正2年(1913)から平成中頃まで営業していた川名写真館(館山)に伝わった資料で、「エヤーブラシの写真」と書かれた箱に入っていたことから、指示を元にエアブラシで加工したのでしょう。
ではなぜ、このような加工をしたのでしょうか。前回も紹介したように、館山湾周辺は首都防衛のために建設された東京湾要塞の周辺区域である「要塞地帯」に位置していました。明治32年(1899)制定の要塞地帯法によれば、要塞地帯内では許可を得ずに「水陸の形状を測量、撮影、模写、録取すること」が禁止されており、写真から陸地を消した理由はこのためと考えられます。
川名写真館は館山海軍航空隊の写真集の発行にも関わっており、撮影は軍や要塞司令部の許可を得て行ったものと思われます。恐らく写真を公開、あるいは出版物へ掲載するにあたり、地形や撮影地が分からないよう加工したのではないでしょうか。
このような加工の例は、当時発行された観光絵はがきでも確認することができ、要塞地帯内の写真家たちが規制を受けながら営業していたことが分かります。要塞地帯の地形は、要塞の配備や構造が判明する恐れのあることから国防上の軍事機密であり、館山湾の漁船を撮影した写真であっても、背景の地形は重大な機密事項となったのです。
※写真は本紙をご覧ください。
■博物館の休館日
本館・館山城:8/4(月)、12(火)、18(月)、25(月)
渚の博物館:8/25(月)