くらし 【特集】「すぎなみビト」ひきこもり家族会 飯田惠美子(1)



プロフィール:飯田惠美子(いいだ・えみこ) 昭和37年生まれ。杉並区在住。息子が高校時代の不登校を経てひきこもり状態になったことをきっかけに、ひきこもり支援に興味を持つ。平成31年よりフリーランス杉並家族会に参加し共同代表となり、令和4年より代表を務める。他団体でもひきこもり電話相談員やピアサポーターを担うなど、ひきこもり支援に関する活動を積極的に行っている。

■甘え、怠け…そんな無理解が当事者や家族を苦しめる
─正しい理解促進のために、ひきこもりとは何かを教えてください。
一定期間にわたって、対人関係や社会参加に著しい困難を抱えて、家庭・自宅にとどまっている状態のこと。病気や障害の名前ではなく、さまざまな要因から生じるものです。いつでも誰でも、どんな世代でもなり得る状態であり、決して本人の甘えや怠けではありません。

─どのようなきっかけでひきこもりになるケースが多いのですか?
いじめ・不登校・人間関係の挫折など、ひきこもりにつながったきっかけは人それぞれ異なりますが、いずれにしても、傷ついた経験・生きづらさの積み重ねによって心身ともに疲労し、エネルギーが枯渇してしまい、動けなくなってしまうというもの。ひきこもりの期間というのは生きるためのエネルギーを充電している期間であり、命を守るための生存手段でもあって、いちばん苦しいのは本人なのです。

■孤立しがちな親を支える「ひきこもり家族会」
─ひきこもり家族会というのは、どのような会ですか?
ひきこもりの子どもを持つ親同士が交流する場所であると同時に、ひきこもり当事者が集う場でもあります。交流を通して、家族が元気になっていくために社会的に必要なものの一つだと、私は捉えています。

─飯田さんが家族会に参加するようになったきっかけを教えてください。
18歳でひきこもりになった息子に対してどう接していいのか分からず、糸口が欲しくて巣鴨にある家族会に参加しました。とてもよい会だったのですが、距離的に通い続けるのが難しく、一度は継続的な参加を諦めました。そんな中、同会の地域家族会として杉並にフリーランス杉並家族会が立ち上がったことで、定期的に通うようになりました。

─共同代表として積極的に活動し始めたのはどんな思いからですか?
参加当初、代表の方がとても忙しそうに奔走しているのを見て、何か私にできることがあればと声をかけたのが、共同代表として活動するようになったきっかけです。そこにはもちろん、息子の支援者でありたいという思いも強くありました。とはいえ、私自身もひきこもりの子どもを持つ親の一人。参加者の皆さんを支援する立場だとはあまり思っていなくて、あくまで「同じ経験を持つ仲間」という感覚です。ただ、ひきこもり電話相談員・ひきこもりピアサポーターなどの養成講座で学んだ知識もありましたので、そういったことも含めてお伝えして、共有できたらと思いました。

─フリーランス杉並家族会ではどのような活動が行われていますか?
主な活動の一つは、ひきこもりに関する専門家に登壇いただく講演会です。さまざまな角度から情報をお伝えできるように、登壇者のコーディネートに力を入れています。皆さん熱心に話を聞いてくださり、講演後の質疑応答も含めると数時間があっという間に終わってしまう。あるとき参加した方から「親同士で話す時間も欲しい」と声が上がり、4年12月より懇談会もスタートしました。

─懇談会は皆さんにとってどんな場になっているのでしょうか?
毎月開催している懇談会は、親同士がフリートークを通して悩みや辛さを吐き出す大切な機会になっています。今となっては「なくてはならない場」と言っても過言ではありません。というのも、ひきこもりの子どもを持つ親は、家の中では子どもの気持ちや辛さを受け止める立場にあり、自分のことを吐き出せる場がないんです。同じ経験をしていないと分かり合えないことも多く、なかなか周囲の友人に話すこともできません。だから家族会の懇談会は、否定されることなく、親自身が気持ちを解放できる唯一の場とも言えます。

─気持ちを解放することでどんな効果がありますか?
親が気持ちを吐き出し、同じ悩みを持つ人もいるんだと知って少しでも元気になれると、子どもの環境を整える一助にもなります。子どもは親の姿をよく見ているもので、自分のことで悩んで苦しそうにしていることを察すると「自分が悪いんだ」と責めて余計に閉じこもっていってしまう。そんな悪循環を生まないためにも、親が気持ちを少しでも軽くすることはとても大切なことだと思います。また、フリートークだけで終わらず、有益な情報をできるだけ持ち帰ってもらうことも心掛けています。

─これまでの活動の中で特に印象深い出来事、手応えを感じた瞬間などをぜひ教えてください。
初めて会に参加する夫婦が懇談会の部屋に入ってきたとき、二人とも下を向きとても険しい表情をしていました。自身の体験を語るときも非常に緊張した面持ちでしたが、ふと誰かが「うちでもそういうことあるよ」と言うと、安心したのか、その瞬間から表情がほぐれ、最後は笑顔で帰って行きました。それは忘れ難い出来事です。また、懇談会の際には必ず参加者にアンケートを書いてもらい、困っていること・求める支援などを聞いて区と共有するようにしてきました。そういった一人一人の声が行政の支援拡充につながるきっかけの一つになったことは、大きな手応えであると同時に活動の原動力にもなっています。