- 発行日 :
- 自治体名 : 長野県栄村
- 広報紙名 : 広報さかえ 令和7年3月号
■希少動植物調査員からの報告(52)≪最終号≫
2月初め、諏訪湖環境研究センターの北野聡氏から待ちに待った連絡が届きました。2023年調査で新たに見つかった、新産地3か所のシナイモツゴのDNA(遺伝子)分析の結果です。
シナイモツゴは、これまでもこの場で取り上げてきた魚です。現在環境省:絶滅危惧IA類、長野県:同IB類という極めて希少な小魚です。
2023年にそれまで確認されていた、登渡切欠堤、雪坪の池のほかに、新たに菅沢三角池、その下流にある沈砂池、そして小滝堤の3か所で生息を確認しました。
昨年9月に北野氏が来村し、シナイモツゴの新産地の確認と詳しい分析のため、生体に影響の少ない尾びれの一部をサンプルとして持ち帰り、分析を進めていたのです。
その結果、新産地3か所のシナイモツゴのDNAは、それまで村内で知られていた2か所と同じものと分かりました。
県内で現在シナイモツゴの生息が確認されているのは、長野市信里、上田市菅平、栄村の3地域だけです。今回の結果では、栄村のシナイモツゴは、上田市菅平の集団と同じであり、長野市の集団とはDNAにわずかな違いが見られ、別な集団であることが分かりました。
北野氏によれば、県内ではDNAから見ると、(1)長野市の集団と、(2)上田市及び栄村の集団の2タイプがいるとのことです。
今後村の宝として、より積極的なシナイモツゴの保護が必要です。
◆生き物の分布の不思議
それにしても、不思議です。シナイモツゴは古い池や溜池などに棲すむ小魚です。栄村と上田市は相当の距離が離れているのですが、どうやって分布を広げたのでしょうか?
村内の5か所をみても、新産地の3か所は同じ水系でつながっていますが、登渡切欠堤と雪坪の池は、大きく離れ、水系も全く別です。
◆メダカは空を飛ぶ
「メダカ」という小さな魚がいます。我々の調査では自然分布かどうかは、はっきりしないものの、自然繁殖しているメダカを村内で1か所の溜池で確認しています。
おもしろいことに、メダカはほかの池沼とは遠く隔絶された山間地の池などで生息している場合があります。これもとても不思議です。卵が水鳥の脚などについて運ばれたものと考えられます。「メダカは空を飛ぶ」と言われるゆえんです。
シナイモツゴもそのようにして分布を広げてきたのでしょうか。すぐ隣の津南町にもシナイモツゴの生息地がいくつかあります。津南町のシナイモツゴのDNAはどうでしょうか。栄村と同じなのか、それとも別の新潟県のタイプなのでしょうか。現在北野氏が調査中です。結果が楽しみです。
ちなみに現在ホームセンターなどで「メダカ」として売られているものは、観賞用に品種改良された少し橙色をした「ヒメダカ」です。本来のものは、「黒メダカ」という名称で売られていることがほとんどです。そのため、間違えて「ヒメダカ」を自然に放流してしまう事例が全国で見られます。遺伝子の攪乱(かくらん)を防ぐために、避けなければなりません。
2020年の調査開始から、毎月この場をお借りし連載してきた「希少動植物調査員からの報告」は、5年間の調査終了に伴い今月で最終回となりました。これまで調査で見つかった希少な動植物の報告と、村民の皆さんに少しでも身の回りの自然に関心を持っていただきたいと願って回を重ねてきました。これまで、多くの皆さんから情報をいただくとともに励ましの声をかけていただきましたことに、この場をお借りして御礼申し上げます。栄村には、誇るべき豊かで多様な自然環境があります。この村の文化として、自然環境を活かしながら持続可能な村づくりが行われていくことを願っています。
(栄村希少動植物調査員・涌井泰二)