くらし とよあけ花マルシェコラム

〈大いに暑い〉と書いて大暑。梅雨を過ぎてから何度「暑〜い」と言ったかわからないけれど、なんといっても一番暑いのがこの時季です。
「ええ、日本列島はスッポリ高温高湿の太平洋高気圧に覆われてしまって、日陰でさえちっとも涼しくないですもんね〜」「もう山へ避暑にでも行かないとやってられないよ〜!」そうですね。では、今回は夏の山林で花を咲かせるヤブランのお話でもさせていただきましょうかね。
ヤブランはキジカクシ科ヤブラン属の一種です。ランの名を含んでいますが、ヤブランはランの仲間ではありません。「で、どうして名前が〇〇ランなわけ?」それは、ヤブランの葉がシュンランの葉に似ているからのようです。両者は自然の生息環境も近いので、花の無いときにヤブランの株を見つけたら、一瞬、シュンランと見間違えることもあります。ただし、花が咲くと全くの別物ですけどね。
ヤブランの仲間は、中国の黄河以南から東南アジアにかけての広い地域における標高1,400m以下の山間部の森林に生息し、日本にはこのうち3種が自生しています。その代表種であるヤブランは、主に本州山林の地面で見かけることができ、7月下旬から秋にかけて次々に紫色の小輪花を着けていきます。
「えっ、山に生えてるの?でも公園とか、近所のお庭でも良く見かけるよね。」たしかに。ヤブランからはいろいろな園芸品種が作られており、野生種を探さずとも、比較的容易に生活圏で見ることができます。特に多いのは、葉の両縁(りょうふち)に斑(ふ)の入ったフイリヤブランでしょうか。
ヤブランは常緑の多年草で、また耐暑性にも耐陰性にも優れ、葉が低い位置で、株が横に広がっていくので、フルシーズンでグランドカバーに利用できます。また、他の花が少ない真夏に花を咲かせ、花が終わると黒々とした美しい種子をつけていきます。丈夫で長生きな上に変化に富んだところは、お庭づくりにはとても重宝する存在です。さらに、ヤブランの仲間は総じて根に薬効成分を含み、古くから漢方薬に使われています。「なんか、ヤブランって何でもイケちゃいますね〜」そうですね。ふだん見かけても、それほど派手ではないので何となく通り過ぎちゃうけど、知ってみると結構重要な植物に見えてきたでしょ?
ところで、ヤブラン属の学名はLiliope(リリオぺ)です。リリオぺはギリシャ神話に登場する精霊で、なんと、スイセンにされてしまったナルシッサスを生んだ母親だそうです。真冬の花スイセンと真夏の花ヤブラン。全くかかわりを感じられない二つの花が、こんなところでつながってました。それでは皆さん、熱中症にはくれぐれもご注意下さ〜い!

執筆/愛知豊明花き流通協同組合 理事長 永田 晶彦
※写真は広報紙34ページをご覧ください。