文化 ふるさと再発見 Re:discovery Omihachiman 第76回

■文化財の保存修理(1) 五月人形
今回からは、文化財の保存や修理の様子を紹介します。初回は「五月人形」です。
「長い歴史の中で生まれ、はぐくまれ、今日まで守り伝えられてきた貴重な国民的財産」である文化財。中でも形あるものは、経年劣化やさまざまな要因による破損が生じてしまうことがあります。本市では、今日まで受け継がれてきた文化財を後世に守り伝えていくため、保存・修理・活用を行っています。今回は、令和6年度に修理を行った五月人形について紹介します。
修理対象となった五月人形は、大将に仕える従者で、左立て膝座りの旗持ちです。作風や受け継がれてきた記録から、製作年代は江戸時代末期から明治時代初期とみられます。当人形は旧八幡町新町通りに本店を構えた豪商・森五郎兵衛家伝来の貴重な歴史資料で、本市へ寄贈いただいて以来、保存と公開を行っています。修理は文化財の人形の修理経験と確かな技術をもつ、専門の職人が在籍する業者へ依頼しました。
今回の修理で最大のポイントとなったのは、人形が自立できる状態に直すことでした。左立て膝でしゃがんだ姿勢の当人形は、腰にあたる部分の材が経年劣化などで痩せてしまい、安定した自立ができない状態にありました。そのため取り扱いが難しく、更なる破損の危険があるため、近年は展示を見送ってきましたが、今回の修理で胴体の中の基礎を作り直し、支える点となる両足も強化したことで、展示ができる状態となりました。また、脱毛していた髪の毛を補ほ填てんして結い直し、薄れていた眉毛や口紅の塗り直しと、お顔全体の汚れ落としを行いました。これにより本来のりりしい表情が戻り、くすんでいた肌の色も明るくなりました。五月人形の肌の色は、もともと真白(まっしろ)が主流でしたが、江戸時代末期から明治時代にかけて、個々に濃淡がありながらも薄だいだい色へと移り変わっていきました。当人形はその過渡期の製作とみられますが、まだ真白に近い薄だいだい色をしています。
その他、衣装の欠損部品の復元新調や破損箇所の修理を行いました。長い年月の中でどのような変化があったのか分かるように、修理の際に出た元の素材は破棄せず、記録とともに資料として保存しておきます。文化財の修理は、本来の材を可能な限り生かし、元に近い風合いに寄せ、必要最低限の部分のみ修理を行うため、新品のように生まれ変わるといった印象はありませんが、本物の価値を損なわないために現状維持修復の理念を守っています。
市立資料館では、端午の節句にあわせて今回紹介した五月人形を含めた節句飾りを展示します。人々が受け継ぎ、守ってきた歴史をぜひご覧ください。