- 発行日 :
- 自治体名 : 大阪府高槻市
- 広報紙名 : 広報たかつき(たかつきDAYS) 令和7年11月号 No.1452
【03】聞く ネットを傷つけ合う場所にしない
ネット上のさまざまな出来事や情報との向き合い方について専門家に話を聞きました
京都府立大学副学長
生命環境科学研究科教授
浅田太郎さん
情報科学の研究者、専門はヒューマンインタフェース。ネットに投稿された言葉を検出し、危険度を判定するネットパトロールシステムの開発者で、現在も京都府との共同研究に携わっている
◆この数年でより身近な社会問題に
インターネット(以下ネット)上の誹謗中傷は、私が研究を始めた10年以上前から存在しますが、この数年でさまざまな変化が起きています。
1点目は「対象の広がり」です。ネット上の誹謗中傷は、以前は著名人などの公の立場にいる人がターゲットにされてきましたが、最近は、一般の人も被害に遭うケースが増えています。
次に「加害者像」です。ネット上では、年齢や性別を偽ることができるため、前後の投稿から推測した内容になりますが、若年層だけでなく、中高年による誹謗中傷行為が増えています。これは、令和2年以降、コロナがまん延したときに、自宅で過ごす時間が増え、シニア世代にネットやSNSが一気に浸透した影響ではないかと考えられます。
では、なぜ人はネットの世界で、攻撃的になってしまうのでしょうか。これにはネットの「匿名性」が深く関わっていて、心理学では「オンライン脱抑制効果」と呼ばれます。「人は匿名になると感情を制御しにくくなる」というもので、対面の会話なら、相手の意図を表情や声のトーンなどから読み取ることができますが、ネットはそれができないため、感情に走った攻撃をしてしまうというものです。
◆拡散数が投稿者のごほうびに
普段何気なくSNSなどを利用していると、誰かの「怒り」の投稿を目にすることも多いのではないでしょうか。複数の研究により、社会規範から外れた行為を非難する「怒り」を含む投稿は、ユーザーの注目を集めやすい傾向にあることが示されています。また、SNSなどのプラットフォームは、反応が集まる投稿が優先的に表示されるため、拡散に拍車がかかるような仕組みになっていることもポイントです。
特に知ってもらいたいのは、拡散数は、投稿者にとって「ごほうび」の役割を果たすこと。怒りを込めた投稿が多くの反応を集めることを体験した投稿者は「こういう発言は支持されるんだ」と学習し、同じような投稿を繰り返すようになるのです。この悪循環が誹謗中傷がなくならない要因と考えられています。
◆安易に反応せずまずは傍観
先程の「怒り」を含む投稿以外にも「応援したい」「良かれと思って」という気持ちで、いいねやリポストをしたくなるかもしれませんが、安易に反応することは危険が伴います。
心の中で意見を持つのは自由ですが、まずは傍観しましょう。なぜなら、真偽が不確かな情報でも、広く拡散されることで「多くの人が拡散(支持)している意見は正しい」という錯覚を生んでしまうからです。拡散されることで、新たな被害者を生む可能性もあります。一人一人の「関わらない意志とモラル」が、誹謗中傷を抑える力となります。
また近年、急速なスピードで生成AIなどの技術が発展し、真偽の見極めが非常に困難になっています。どんな人物や団体の投稿でも「まずは疑う」を実践しましょう。投稿者の主張や画像を信じて、安易に同調してしまうのは危険です。
◆誤りに気が付いてからでは遅い
投稿やいいねなどをした後に、誤りに気が付き、削除したとしても、誰かに証拠として画面を保存されていることも。個人情報が特定されてしまったり、あなたの思想を誤解されたり、場合によっては誹謗中傷の加害者として損害賠償請求などをされる可能性もあります。
◆ネットもリアルと同じ社会の一部
ネットは、世界中の人と匿名で自由にコミュニケーションが取れる素晴らしいツールです。この「匿名性」を生かした、建設的な意見や論評は、大いに歓迎されるべきで、匿名であること自体が悪なのではありません。重要なのはどう使うかです。
ほとんどの人がネットを利用する現代。ネットも社会の一部と言えます。傷つけ合う場所にしないために、一人一人がリアルと同じように、ネット上でも他人の人権を尊重することが当たり前の世の中にしていかなければならないと思います。
