- 発行日 :
- 自治体名 : 島根県江津市
- 広報紙名 : かわらばん 2025年4月号VOL.880
■先月に引き続き石見焼についてお伝えします。
地域おこし協力隊 後藤響介
■大型製陶「しのづくり」
前回の記事で、人の背丈ほどの「大はんど」をご紹介しました。それには約200kgの陶土が使われていますが、柔らかい粘土の状態では潰れてしまうと思いませんか?
石見焼の職人は、「しのづくり」と呼ばれる技法を編み出し、大型製陶が可能になりました。腕ほどの太さの棒状にした粘土を円形に整え、少しずつ積み重ねていきます。この工程で自重による崩れを防ぐために適度に乾燥させる必要がありますが、気温や湿度などの影響を受けるため、簡単にはいきません。職人は時間と体力をかけ、長年の経験から得た勘を最大限に生かしながら、石見焼の「大はんど」を作り上げるのです。
■石見焼の温度
石見焼の頑丈さの秘密は、島根県西部に約200万年前に堆積した都野津層粘土にあります。この粘土は高い耐火性を持ち、通常よりも100度高い約1300度前後の高温で焼き締めることができるため、一般的な陶器よりも堅牢です。また、代表的な来待釉薬は同じく高温で焼くことで赤褐色に発色し、ガラス化して耐久性を向上させます。
現在、ガス窯や電気窯の導入により温度や品質の管理が容易になりましたが、江津市内では伝統的な登り窯を使用する窯元は1軒のみとなりました。火の当たり方によって焼き物の表情が異なるため、その独特の仕上がりを求める依頼者が多いそうです。
■身近な伝統工芸品
かつて生活必需品だった水瓶としての需要は減少しましたが、石見焼は頑丈さと耐久性の高さを生かした日用品の生産へとシフトしています。食器や花瓶、漬物や味噌の保存に適したふた付きの小つぼ、すり鉢やおろし器など、実用性を追求したアイテムが次々と開発されています。また、「しのづくり」の技術を応用したサイドテーブルやガーデンテーブルセットは、海外でも高く評価されています。
毎年秋に江津市地場産センターで開催される「石見焼大陶器市」をご存じの方も多いのではないでしょうか。このイベントは当時、石見陶器工業協同組合の事務局をされていた白川和子さんが「地元で石見焼をもっと使ってもらいたい」という思いから組合員と共に立ち上げたものです。
伝統工芸品でありながら普段使いができる石見焼は、江津の貴重な財産と言えます。前回と今回の記事を通じて、石見焼に秘められた歴史や特徴、職人のこだわりに改めて目を向けていただければ幸いです。
※本記事の写真は白川さんにご提供いただきました。ご協力ありがとうございました。