- 発行日 :
- 自治体名 : 愛媛県内子町
- 広報紙名 : 広報uchiko 2025年12月号
■「つむぐ」がくれたチカラ
地域の皆さんはアートベンチャーに参加し、「つむぐ」の作品などに触れ、どんな思いが芽生えたのでしょうか。地域の皆さんに話を伺いました。そして、井口先生が作品に込めた地域の未来への願いとは――
●「つむぐ」は小田地域の宝 今後も活用してほしい
谷本功(いさお)さん=中川西=
8年前から学生の聞き取り調査に協力し、巨樹巨木や昔の衣食住、子ども時代の遊びなどを語ってきました。とても熱心に聞いてくれるので、何十年前の記憶までよみがえってきます。学生との対話はよいよ楽しいです。
「つむぐ」を見たとき、なんて地域愛にあふれた作品だろうと、感動しました。学生と井口先生、地域の人が向き合ってきた時間を想像せずにはいられませんでした。長年、この地域を、ここで暮らす私たちを大事に思ってくれて「ありがとう」と、感謝の気持ちでいっぱいです。
布に記された写真や文章からは、先人たちの汗がほとばしるような生きざまが伝わってきます。人が減り、地域の将来を思うと心配も多いですが、「まだまだ、やれることはある」と励まされます。「つむぐ」は小田地域みんなの宝物。多くの人に見てもらい、地域のために生かされてほしいです。
●この先も楽しい思い出を地域で重ねていきたい
濱田和栄(かずえ)さん=小田上=
小田でアートベンチャーが開催されると聞き、私たちも何かできないかと考えていたところ、バスツアー客の昼食作りをお願いされました。地元の女性たち数人で集まり、せっかくなら郷土料理でおもてなしをしようと、たらいうどんや栗おこわなど、小田の味にこだわったメニューを考案しました。当日はお客さんから「おいしかった」と、うれしい声をたくさんかけてもらい、こちらが元気をもらいました。
小田で生まれ育った私にとって、商店街の軒下に並ぶ古写真ののれんは、とても懐かしかったです。母がだんご汁をよく作ってくれたことや、小田市に大勢の人が集まっていた様子など、子どもの頃を思い出しました。今回、アートベンチャーに参加して楽しかったです。アートや人の笑顔に包まれた商店街を見て、夢があると思いました。この先もみんなで楽しい思い出をつくっていけたらいいですね。
●まちの良さを見つけて誰かに発信したい
本田暖乃(のの)さん(小田中3)
「つむぐ」の制作では、最後の縫い合わせ作業に参加しました。完成した作品をみんなで広げたとき、体育館の一面が布で覆われた光景が心に残っています。一針ずつ時間をかけて手縫いした分、達成感がありました。忘れられない思い出ができました。
旧二宮邸での展示では布を踏み進むと、小田の歴史の上に立っているようでわくわくしました。布に書かれた文字をじっくり読むと、地域のあちこちに芝居小屋があったことや、私の住む寺村地区にたばこ屋さんがあったことなど、初めて知ることばかりでびっくり。隣で解説してくれた大学生が、住んでいる私たち以上に小田に詳しかったことにも驚きました。小田はコンビニもなく不便なところもあるけれど、人との距離が近くて思いやりを感じられるすてきなまちです。私も小田の魅力をどんどん見つけて、誰かに伝えられるようになりたいです。
■「一人一人の人生が輝いて、まちがある――」
artist 井口梓さん(愛媛大学社会共創学部副学部長)
●先人たちの挑戦が今につながる
一枚一枚の布を見ると、語ってくれた一人一人の表情やその時の情景が目に浮かびます。
家族との温かい思い出や、生活で苦労した話、頑張ってきたことなど―。この布は地域の歴史文化の記録であり、住民の皆さんが何かに挑戦し懸命に生きた証でもあります。山も田畑も町並みも、今ある地域の全ては先人たちが手をかけてできたものです。一人一人の人生が輝き、みんなで手を取り合って、何かに挑戦したり、心から楽しんだりすることでまちがあるのだと思います。「つむぐ」にはそんな思いを込めました。
●地域の価値は「人」
多くの地域が人口減少という大きな課題を抱えています。人の数で地域の価値が測られがちですが、決してそうではありません。地域の価値や幸せは、その地域に暮らす人が決めるものです。大切なのはここで暮らす人であり、どう生きるか。いかに地域を大切に思って、努力したり、挑戦したりしているか―。そこにこそ価値があると感じています。なくしたものに目を向けると、時には寂しさや悲しさを感じるかもしれません。でも、ここで生きる喜びや楽しさを感じながら、愛着を持って暮らす皆さんを見ると、数字では測れない豊かさがたくさんあるのだと気付かされます。
●「つむぐ」は未来への種まき
作品を見た人からは「風に吹かれると、布が揺れて生き物のように思えた」という感想を多くもらいました。布の上を歩く人、子どもが寝転んでほほ笑む姿など触れ方も自由で、小田という地域像を心と体で感じ取ってもらえたように思います。過去を振り返ったり、未来を語ったりと、新たな語りも生まれ、地域の可能性を感じました。挑戦してよかったです。「つむぐ」は未来への種まき。この地域が世代を越えて、この先もずっと未来につむがれることを願います。
