- 発行日 :
- 自治体名 : 福岡県筑紫野市
- 広報紙名 : 広報ちくしの 令和7年10月号
■「TUNAGU II」とは
人と人、心と心をつなぐ、世界とつなぐ―人権尊重のまちづくりの一環として、さまざまな人権問題について市民の皆さんと共に考えます。
■古着(ふるぎ)のリフォーム
そのだ ひさこ
思えばこの20年間余、外出着の衣類を買いに行ったことが記憶に無い。50歳を過ぎたころからなぜか、和服の古着屋さんに通うようになった。
子育てと同和教育推進教員などの仕事で、昼夜の区別がないような生活が続いた。そのような仕事が一段落した50歳を過ぎたころ、ふと母の着物姿が思い浮かんできて、「ゆっくり着物など着てみたいな」と思った。母は兄と私の二人を育てるために、数十年間、冬はこんにゃく作りとその行商、夏は旅館の料理人などをしていた。その間、モンペなどの仕事着に一日中まみれた生活だった。
母は年に1回くらい、18歳で博多の大学に行った私の所にふらりと着物姿で現れた。すると、突然、貧乏学生の私の食卓がにぎわった。特別なごちそうというわけではないが、母の料理はどれもおいしかった。
母はなぜか、和服姿がよく似合った。渋い茶系の着流しに、シックな薄緑と柔らかい紫色の模様の羽織を着ていたことを覚えている。きっと、母の一ちょうら(一着きり)の着物だったのだろう。この紫と緑の色の絶妙な組み合わせは自然界の初々しい新緑にそっと寄り沿って咲いている山藤の紫を連想させる。その自然の色の絶妙なコンビネーションを発見したときは、心が和まないことはない。
ときの流れとともに、和服を着る人も減少し、古着屋さんも次々に消えていったが、通いつけの古着屋さんの店内には、今も和服が山のようにあふれている。私が一番大好きな着物生地は「大島つむぎ」と「総絞り」である。ともに絹100パーセントの布である。古着といっても、ほぼ新品に近いものもある。
安い古着の着物一着を買い求め、生地が破れないように縫い目を全部解き、そっと押し洗いをし、すすいで干し、蒸気アイロンをかける。そこまで解体した布を知人に届け、縫ってもらう。型紙は一つ、違うのは襟元のみ。襟が丸か、四角か、V字型かの違いだけである。袖は、肘の先まで長めにしてもらっている。春、夏、秋、冬の一年中着るためである。絹100パーセントの布は、冬温かく夏は涼しい。夏はそのまま、冬は上にコートや毛糸のものを羽織り、一年中着ることができる。一番好きな組み合わせは絹の古着のワンピースの上に革のジャンバーを羽織ること。大好きな絹と皮、ともに呼吸をする自然素材である。
体一つで数十年働きつづけた母は、60歳で倒れ、半身不随になり、12年の闘病生活の末、亡くなった。介護施設など皆無の時代、病院を転々とした末に。その治療費支払いのために、ついに私は人より10年遅れで教職に就いた。だが、働いて母にいい着物を買ってやりたいという願いは、無念なことに、ついに叶わなかった。
新憲法下でさえ、女性差別的なまなざしの底深いこの日本社会の中で、母(たち)の思いを着るように、古着をリフォームして身にまとっているのかもしれない。
■男女格差の指数
女性差別的なまなざしの深さを世界レベルでみることができる指標があります。毎年世界経済フォーラムが発表しているジェンダーギャップ(男女格差)指数です。指数は、各国の政治・経済・教育・健康の状態を分野別に調べ、総合的に判断して男女格差の状況を順位付けしています。
日本は、世界に比べ、女性の就学率が高く健康寿命も長いですが、政治、経済部門において男女格差が大きく、4部門総合で世界118位になっています。
地域や家庭においても、例えば、育児・調理・近所付き合いなどの現状を振り返り、考え方や関わり方のリフォームにつなげることもできそうですね。
問合せ:教育政策課
