- 発行日 :
- 自治体名 : 福岡県広川町
- 広報紙名 : 広報ひろかわ (令和7年8月1日号)
広川町の八女茶生産者に、就農した背景や栽培にかける思いなどをインタビューしました。
“いまだに満足するお茶はできない”
“まだ自分は何も成し遂げていない”
“なかなか仕事を任せてもらえない”
一つの道を追求し続ける「プロフェッショナル」だからこそ、悩みは尽きない。
仕事に取り組む姿勢や考え方を通じ、生き方や「生産の流儀」を浮き彫りにします。
■“創業100年以上続く老舗” JA茶業部会筑後広川支部部会長 鍋田製茶 鍋田武寛さん
○30年追求したお茶づくりの道、いまだ極地に至らず
高校卒業後、実家がお茶農家だったこともあり、静岡県のお茶の学校に通いました。広川町に戻ってきたところ農協から声がかかり、お茶の指導や販売を約2年担当し、22歳のときにお茶農家として就農しました。
当時はお茶の栽培に関して聞ける人も少なく、挑戦と失敗の繰り返しでした。それでも、先輩のアドバイスを受けて日々経験を積むことで、自分なりに栽培や加工の知識を深めることができました。
仕事する上でのやりがいは、やはり良いお茶ができたときです。しかし、お茶づくりを始めて30年経つものの、いまだに満足するお茶はできません。それだけお茶づくりは難しく、奥が深いと感じます。
○昔ながらの「露地栽培」へのこだわり
鍋田製茶では、素材の味を生かした健康的な飲み物として飲んでもらいたいという想いから、昔ながらの露地栽培にこだわったお茶づくりをしています。今は、茶葉の色味や水色が重要視されるため、被覆(ひふく)栽培が主流になりましたが、私はお茶本来の味や香りを残したい。露地栽培は気候条件がもろに影響し、収穫時期の見極めも難しいですが、その分、良いお茶ができたときはうれしいですね。
これからも、自分が美味しいと思うお茶づくりを大切にしていきたいと思います。
○お茶文化を未来へつなぐ
現在、子どもがいても継がない農家が多いと聞きますが、それはお茶農家も同様です。若い人がお茶に魅力を感じていないからでしょうか。
理由の一つとして、飲料の多様化や食生活の欧米化など、生活様式の変化が関係していると思います。日常的にお茶を消費する機会が減り、必然的に急須のある家庭も少なくなっている。この状況を打破するには、ただの飲料としてだけでなく、伝統文化としてお茶を残していくことも視野に入れ、茶業に関わるすべての人が一丸となってPRに力を入れる必要があります。
現在、抹茶が世界的に注目されており、売り込み方次第で煎茶にもチャンスがあると思いますが、まずは地元の人に地元で作っている良いものを消費してもらいたいです。
■“可能性の探求者 ”JA茶業部会筑後広川支部所属 ゆげ製茶 弓削洋さん
○あのころ見た両親の背中
ゆげ製茶は、昭和21年に祖父が創業し、2代目である父が現在の工場を建て、3代目の私が受け継ぎました。
小学生のころから日常的にお茶の手伝いをしており、両親の仕事をする背中をずっと見てきました。その背中がかっこよかったんです。そんな両親に憧れ、高校卒業後に就農を決めました。
しかし、いざ就農したものの、目標を立てていなかった私は結果を出すことができず、悶々とした日々を過ごしていました。そんな中、周りの先輩や後輩が徐々に結果を出しはじめ、自分の中で悔しい気持ちが芽生えるようになります。そこから真剣に仕事と向き合うようになりました。
家族経営のため、親と衝突してしまうことは多々ありますが、感謝の気持ちを忘れたことはありません。
○和紅茶誕生の背景
ペットボトルのお茶が普及し始め、全国的に煎茶の需要が右肩下がりになってきたときに「同じ茶葉で何か別の物がつくれないか」と考えたのがきっかけです。
当時、「三番茶」で和紅茶づくりをしているところがなく、面白い試みだと思い、和紅茶づくりに取り組みました。ついには世界のコンテストで賞をいただくに至り、今も改良を重ね、高品質な和紅茶づくりを追求しています。
和紅茶の誕生は、八女茶の可能性を考え続けた結果の産物だと思っています。
○終わらない可能性の追求
祖父・父から畑や工場を受け継ぎ、与えられた環境で働く中で「まだ自分は何も後世に残すことをできていない」と感じています。広川町や八女茶業界全体にとってプラスになることをしていきたい。そのためにも、まずはゆげ製茶の知名度を上げ、お茶の産地として広川町の知名度を上げていきたいと考えています。
ゆげ製茶は生産者でありながら直販をしていますが、お茶屋さんと敵対したいわけではありません。あくまで考えているのは八女茶全体のこと。生産者とお茶屋がもっと近い関係性で意見交換ができれば、八女茶業界全体がもっと良い方向に向いていくはずです。
今後もお茶の可能性を広げる取り組みを積極的にしていきたいと思います。
■継承するお茶づくりへのプライド” JA茶業部会筑後広川支部所属 山下製茶 山下皓聖さん
○八女茶づくりに携わる喜び
私は昨年に就農し、今年で2年目になります。中学生のころから繁忙期に家業を手伝う中で、両親の忙しい姿を見てきており、手伝いたいと思ったのがきっかけです。
お茶農家の仕事は大変で、特に繁忙期は休みがないくらい忙しいですが、プライドを持って仕事しています。全国的に見ても八女茶は高品質なイメージで、味も本当に美味しい。八女茶栽培に携われていることがうれしいです。
そして何より、繁忙期に親せきみんなが手伝いに来てくれること、同業者に畑を褒めてもらうこと、お茶が美味しいと言ってもらえることが、仕事のモチベーションになっています。
○父の背中を追いかけて
山下製茶は祖父の代から始まり、私で3代目になります。現当主である2代目のお茶熱心な父が、当時2町5反だった畑を現在の9町まで拡大していきました。
父は仕事に対してとても厳しく、私に仕事を簡単に任せてはくれません。お茶づくりに対する一途な姿勢は本当にすごく、頭の中はお茶だらけ。飲みに行ってもお茶の話をしていますからね。でも、それってかっこいいですよね?
○3代目が見据えるビジョン
山下製茶は、まだ父がメインですが、私の代になっても繁栄させていきます。そのための目標として、まずは工場を大きくすること。1日に製造できる量を増やし、人も雇えるようになりたい。将来的な可能性として、直販も考えていきたいと思います。