- 発行日 :
- 自治体名 : 長崎県対馬市
- 広報紙名 : 広報つしま 令和7年12月号
■広島から対馬へUターン

都会を離れて地方で暮らす人の流れは、近年、人生の選択肢の一つとして定着してきています。対馬にも毎年、多くの人が移住しています。生まれ育った故郷対馬へ帰る人、思い描いた暮らしを実現するために対馬を選ぶ人。様々な理由で対馬へ移住した方の目線は、対馬に住む私たちにとって、新しい魅力を見つけるヒントになるかもしれません。
今回は、峰町でお好み焼き屋を営む、山本さん一家をご紹介します。
■本場広島の味を再現
広島のお好み焼きで欠かすことのできない、麺と天かすを取り寄せるこだわりのお好み焼きを、客の目の前に置かれた幅約2mの大きな鉄板で調理するのは、この店を切り盛りする美津島町賀谷出身の山本チカさん。食材を返すだけでなく、混ぜたり、切ったり、すくったりと2本のヘラを巧みに操る姿は、まるでマジックショーを見ているよう。注文が重なった時は、20枚近くを一度に焼くことができるそうで、その姿を見たお客さんから拍手が上がることも。
■いつかは対馬に帰りたい
高校まで対馬で育ったチカさんは、何かモノを作る人になりたいと、卒業後は食に関わる道へ進みます。福岡でのパン屋を皮切りに、各地で食に関わる仕事を重ね、縁あって広島でお好み焼きの修行をすることになり、広島有数の観光地、宮島のお好み焼き店で働いていました。「修行をしたお店は広島でも人気のお店で、毎日たくさんのお客さんが訪れます。そんな環境で修行させていただくことで、最終的に20枚を一度に焼ける技術を身に付けることができ、一人前と認めてもらいました。」と話すチカさん。
お好み焼き職人として忙しい日々を送っていたころ、広島出身の夫真也さんと出会い結婚、出産を機に対馬に戻ろうと決心しました。
そして、チカさんは「対馬の自然の豊かさや人の温かさは唯一無二で、子どもを育てるなら、そんな対馬がいい!と、ずっと思っていました。そこで産休中に対馬へ戻る決意をし、夫とともに対馬へ帰ることにしたんです。」と話します。
対馬で子育てをしたいと考えていたチカさんは、同時に『対馬にないものを持って帰りたい』という、高校卒業後、対馬を離れる時に抱いていた思いを実現すべく、お好み焼き屋を対馬で開くことを決意しました。
■対馬へのUターン、子育て、店づくりに奔走
「妻は、良く言えば行動力がある、言い換えるとおてんばです。」と話す夫の真也さん。生まれ育った地元を離れるのには葛藤があったものの、妻の強い思いと、趣味の釣りが存分にできるという期待が勝り、移住を決意しました。3人は対馬へ来て、移住、育児、そしてお店の開業に向けた準備と、怒涛の日々を送りながら、昨年、峰町にオープンさせました。店名には、たくさんの人たちが集ってワイワイガヤガヤしてほしいという思いに、生まれ育った賀谷をかけて「お好み焼き食堂がやがや」としました。
■子育てで感じた経験も活かした店づくり
「本土のフードコートや飲食店には、授乳室など子どもと一緒にお店を利用してもらいやすい工夫があるけど、対馬のお店にはほとんどなくて…」と話すチカさん。お店には、授乳室や子ども用のいすや食器などを置き、子連れでも気兼ねなく利用してもらいたいという、経験を活かした店づくりに取り組んでいます。
■試行錯誤の毎日
「広島のお店は、観光地のど真ん中にあって、焼いてすぐに食べてもらえる環境でした。しかし対馬でお店を始めた当初はそうではなくて、、、お客様から指摘を受けることもありました。」と話すチカさん。住民や観光客など人が多い地域への出店ではなく、上対馬や下対馬に移動する途中に寄ってほしいと、対馬の中央で店を始めたことで、開店当初はほとんどの注文がテイクアウトでした。そのため、時間が経過したり、容器に入れたりすることで変化する味や食感に悩まされました。
「普段から、季節によってキャベツの切り方や生地の配合を調整して、ベストな状態で食べてもらえるようにはしているのですが、さらにテイクアウト用には、焼き時間や具材のバランスなどを工夫して、冷めてもおいしいように研究と改良を繰り返して、お客様に満足してもらえる商品づくりを目指しています。お陰様で評判は良くなり、テイクアウトでおいしかったからと、今は店舗に足を運んでいただくお客様も多くなりました。」と話すチカさん。本場広島の味を対馬のどこでも感じることができるように、日々進化を続けています。
■鉄板を囲んだ憩いの場所
お昼時になると、昼食休憩のサラリーマンや韓国からの観光客で多くなる店内は、昼過ぎからは、周辺の漁業者の人たちで賑わいます。古藤直也さんと福山康成さん(写真左から)は、ほぼ毎日通う常連さんで「定置網の仕事は朝が早く、昼過ぎはオフの時間。鉄板を挟んで、チカさんや真也さんと話しながら料理やお酒を飲むと、いろんな話ができてとても楽しいです。二人の人柄が生み出す、飲食店という雰囲気ではない憩いの場というところが凄く良いと思います。」と話します。
■みんなが楽しく過ごせる場所を目指す
オープンから1年が経ち、対馬の人たちから愛される存在に成長を続ける「お好み焼き食堂がやがや」店主の山本チカさんは、お店のこれからを「もっと対馬の人たちに知ってもらい、楽しく過ごせる場所にしていきたい。また、子育て世代が楽しめるイベントなどを開催して、店名に偽りなく「がやがやした場所にしていきたいので、これからも頑張っていきたい」と話しています。対馬にない何かを持ち帰りたいという夢をかなえたチカさんは、これからも新たな夢に向かって、家族とともに走り続けます。
