文化 〔特集1〕まちを支える人 #6(1)

■受け継ぐ拍子、未来へ響け。壱岐の伝統・文化
国指定重要無形文化財の神事芸能である、壱岐神楽。島の秋を彩る、笛や太鼓の祭り囃子。威勢のいい掛け声とともに進む、歴史ある舟競争。これらは、壱岐の豊かな歴史と文化を象徴する、島の大切な宝物です。
しかし、時代の移り変わりとともに、これらの伝統を未来につないでいくことは、決して簡単なことではありません。
今回は、島の伝統文化を絶やすまいと情熱を注ぐ「まちを支える人」に光を当て、その活動に込める想いや、未来への展望についてお話を伺いました。

○御幸船(みゆきぶね)保存会・風本(勝本)祭り囃子保存会
Q:勝本浦の秋を彩る御幸船についてと活動の魅力について教えてください。
毎年10月14日に勝本浦で行われる御幸船(みーきぶね)と呼ばれる舟競争(ふなぐろ)は、360年の歴史があります。漕ぎ手不足が深刻になり、平成7年に有志による保存会が結成され、無形の民俗文化財に選択された舟競争を後世に継承するとともに、豊かで活力ある地域づくりの一端を担うべく活動を行っています。
2隻の船が岸から数十メートル先のスタート地点からお互いに綱が張られたのを見計らって行われます。白の舟が勝てば豊作で赤の舟が勝てば大漁と占われます。1回でスタートが決まることはなく、3回もしくは5回目でスタートするのが通例です。
現在、会員16名で、漁業者・自営業・会社員など様々で、年齢も幅広いですが、地域のためという共通の思いがあり、優しく団結力がある素敵な仲間たちです。

Q:祭り囃子の基本構成等についてと伝統を継承していく上での課題について教えてください。
風本(勝本)祭り囃子は、江戸時代を起源とし、毎年10月10日から14日にかけて行われる聖母宮例大祭をはじめ勝本浦地区の各神社の例大祭に、御神輿の後から囃子を奏でながら町内を練り歩くなど、お祭りになくてはならない伝承行事、民俗芸能です。
囃子は、太鼓、笛、鉦(かね)、鼓(つづみ)、三味線を10人から12人ほどの囃子子(はやしこ)で演奏します。現在、20代から70代の幅広い世代で楽しく活動を行っていますが、毎年、囃子子の確保に苦労しています。
250年以上続く、この伝統ある風本(勝本)祭り囃子が、今後も末永く継承できるよう努めていきたいと思います。

○芦辺祭囃子(ちんちりがんがん)芦辺浦青年会
Q:「ちんちりがんがん」の呼称の由来は何ですか。また、このお祭りが芦辺浦にとってどのような存在なのか教えてください。
芦辺浦では、毎年旧暦の9月7日から9月9日にかけて、芦辺浦の住吉神社の例祭が執り行われます。その例祭に合わせて行う約400年前から伝わるとされる祭囃子の行列が、「ちんちりがんがん」です。約30名の囃子方が商売繁盛、家内安全などを祈願して、各家々に“打込み”をしながら、町内を練り歩きます。
この祭囃子の音が「ちんちりがんがん」と聞こえることから、囃子行列のことを「ちんちりがんがん」と呼ぶようになりました。

Q:行列の基本構成や年齢に応じた役割分担について教えてください。
囃子方は、先走り、大胴(大太鼓)、受張(太鼓)、鼓、摺鉦(すりがね)、笛、三味線で構成されています。先走りは、青年会が受け持ち、先導役として家々に打込みの案内を行います。大胴は囃子方の主役であり、芦辺浦の中から小学1年生前後の年齢の男児が推挙されます。受張を受け持つのは青年会の若手です。鼓と摺鉦は小学校1~3年生までの児童が受け持ちます。笛は青年会、三味線はご婦人方が受け持ちます。その他、青年会OBが裏方を務めます。

Q:伝統を守り続けるために工夫されていることや、未来への願いを聞かせてください。
担い手不足は、深刻な課題です。長い伝統を持つ祭囃子は、しきたりも多いですが、少子化により、囃子方の主役である大胴も条件に見合う男児の選定が難しい状況です。
囃子方を支える青年会員も減少しており、以前は、3地区にあった青年会を一本化することで、何とか囃子のための活動を継続しています。
「ちんちりがんがん」は芦辺浦が活気づく非常に大切な伝統行事ですので、今後も、世代を超えて継承されてほしいです。