- 発行日 :
- 自治体名 : 長崎県南島原市
- 広報紙名 : 広報南島原 令和7年8月号
※Parolaは「言葉または保証」という意味
■日が沈む、思い出が浮かぶ
Grazie peri bei ricordi.(素敵な思い出をありがとう)
いよいよお盆の時期になりましたが、皆さんはどのように過ごしているでしょうか。
実は、お盆にお祝いをしないイタリアから来た私には、故人を迎え、送るという儀式はいつも不思議だと思いました。しかし、今年はもう少し共感できる気がします。なぜかというと、馬に乗っているように速くたった4年間の後に、私もコラムを読んでくださる皆さんとお別れしないといけないからです。
この4年間に出会った人、できた事、成長したところ、思い出になった事をこの2ページに詰めようとしても無理だと思いますが、歓迎してくださった皆さんにきちんとお礼を言うように、牛に乗っているようにゆっくりと私の南島原暮らしについて書かせていただきたいと思います。
2021年の10月に南島原市役所に着任しました。もう随分時間が経ちましたが、あの頃はまだコロナ禍であって、私も南島原に来る前に2週間成田市のホテルに引きこもらないといけませんでした。ですから、南島原市に着いた時に、やっと「本物の空気」が肺に入り込んだ気がしました。到着した日に新しいアパートに引っ越すのに流した汗は久々の汗で、その夜に同僚と一緒に食べたちゃんぽんは味覚の目覚まし時計のような物でした。
実は、暇つぶしとしていくつかの本を持ってきていましたが、あれ以来は見たい・感じたい物事がありすぎて、未だに読んでいないのが何冊もあります。休みの日か夕方に、一人で家を出て、何時間も周辺と遠い所まで歩いて、色々な南島原の面を満喫できました。
初挑戦をたくさんしたいと思いながら南島原に来ましたので、最初は車を借りないようにしました。通勤、買い物、お出かけなどはとにかく徒歩か自転車で頑張りました。言うまでもなく、3カ月後に車を借りることにしましたが、その後でも通勤は必ず徒歩でした。毎朝、たった12分の散歩で、町の人に挨拶したり、四季で移り変わる景色を堪能したり、頭の中でしないといけない物の順番の整理をしたりしました。そして、冬と夏に外の畑や庭で頑張っている人たちの姿を見て、「私も楽にしちゃダメだ」とよく感じました。口之津に引っ越してから、通勤は車になりましたが、今でもドライブ中にその人の顔を覚えて、同じのように仕事前に気合を入れます。
職名は「国際交流員」と言いますが、一方的に南島原を国際化させるというより、「ヘビー交流者」として自分と他の外国の人の事を南島原の生活に混ぜ織るようにしました。日本語カフェ、イタリア語講座、多国籍キャンプなどのイベントを合わせて100回弱(本当は数えるのをやめましたけど)開催し、南島原の市民と一緒に大事な思い出がたくさんできました。積極的に何にでも取り組む子ども、子どものように好奇心で溢れている年配の人、毎日一歩ずつ南島原市の将来を築く大人たち、皆さんは老若男女を問わず、素敵すぎる人で、大変お世話になりました。いくつかのイベント、年中行事や事業に力を合わせてもらえて、本当に光栄でした。その中に、皆さんにもイタリアと外国の事をもう少しだけでも近く感じていたなら、私の仕事に価値があったと思います。
ある夜、数年後に帰国する国際交流員の存在は、出会いと経験で濃厚でありながら、儚いところもあると野田浜で夕焼けを見ている間にふと思いました。ただ日本で仕事してみたいという意図で来た私は、気づかない内にこの市と市民との深い絆が出来て、いつかその絆が断たれる事の切なさに一瞬で悟りました。南島原ではなかったら、私の居場所はどこ?イタリアに戻らなくていい?南島原にいていい?将来、どんな人になりたい?とあの夜から、数カ月自分の中で悩み込みました。しかし、最終的に南島原の人の温かい笑顔と穏やかな潮風はその悩みを吹き飛ばしました。結局、自分の南向きの心を聞いて、ここで結婚して、移住して、完全に南島原の市民になりました。
400年以上前にイタリアから口之津に到着したヴァリニャーノがいたから、私が南島原に国際交流員として働く事ができました。初出勤日から、その責任の重さを背負い、誇りをもってイタリアと架け橋になるように頑張りました。4年間全力を尽くして、ヴァリニャーノ神父程の事はできませんでしたが、おそらく彼も賛成できる事がたくさん出来たと思い、心残りは1つもありません。
今月から新しい国際交流員が着任します。私と違うところがあるでしょうが、きっとやる気で溢れているでしょう。最後のお願いですので、どうか皆さんもその人と楽しく交流し、イタリアと南島原の絆をより深く強くしてください。
このコラムが出版される時に、私はもう「国際交流員のエマ」ではなく、「南島原市民のエマ」になります。職名だけが変わりますので、これからも海辺で夕焼けに夢中になっているクルクル頭を見かけたら、「エマ!」と声をかけてきてください。
