文化 学芸員オススメ! No.100 市立美術館の逸品

■海老原 喜之助(えびはら きのすけ)
『本を焼く人』

□絵画から平和を考えてみよう
山積みの本と燃え盛る炎。背後には火の番をする人、本を大切そうに抱きしめる人、その本を奪おうとする人が描かれています。
本を焼く行為は、権力者が特定の思想や学問を弾圧するために行ってきた歴史があり、「焚書(ふんしょ)」と呼ばれます。戦後の日本で、GHQが特定の書籍を発行禁止にするなど出版に関与し、教科書の軍国主義的な記述が墨で塗りつぶされたことは広く知られています。
本作は、本市出身の洋画家、海老原喜之助の版画作品です。同様の油彩画が1954年に制作されていることから、同時期のものと思われます。海老原は幅広い作風に挑戦し、戦争を経験したこの時期は、人間や世界の本質を問いかけるようなヒューマニズムに満ちた作品を描きました。
戦後80年を迎える今年、絵画作品が平和や自由を考えるきっかけになればと思います。
本作は9月15日まで「夏の所蔵品展 ミニ特集:戦後80年―平和への祈り」で展示しています。

問合せ:市立美術館
【電話】224-3400【FAX】224-3409