文化 たるみず歴史・文化散歩 第62回

■居世(こせ)神社と牛根麓
○居世神社
居世神社は、垂水市牛根麓「小路」の国道220号沿いに鎮座しています。居世神社の創建は1378年(永和4年)とされ、1475年(文明7年)に池袋民部少輔によって建立されたと言われています。その後、1663年(寛文3年)に改築が行われています。御祭神は第32代天皇である敏達(びだつ)天皇です。薩摩藩が残した名勝誌「三国名勝図会」にも居世神社の絵図があります。
神殿の扉には獅子の絵があり、安土桃山時代の狩野一派の濃紺の筆致で、ほえたける様に描かれています。

○社殿旧記に残る伝説
居世神社の社殿旧記に残る御祭神にまつわる話をご紹介します。
『当時、居世神の門に住む農夫が潮を汲もうと海の渚に行ったところ、幼児の鳴き声がした。不思議に思って火を照らして見に行ったところ、渚に空船が漂着し、中に7歳の童子が乗っていた。これが欽明天皇(第29代)第1子皇子であった。皇子は雪の降る庭に出て地を踏んでいた挙動が余りに軽率で帝位に良き気量にないとして、空船に乗せられて流された。皇子を見つけた農夫は皇子を大事に育てたが、13歳で身罷(みまか)られ、この地に奉祀された』
居世神社の社殿正面の梁に金色に光る御紋章は、皇室との関係を物語っているのではないでしょうか。この地は、御前崎・お前崎・おぜん原等の地名があります。また、墓と言わず「陵(みさざき)」とも呼ばれる場所もあります。

○牛根麓の史跡と歴史
皇子の荼毘所とされる小烏神社と稲荷神社が、明治の初めに居世神社に合祀されています。稲荷神社は居世神社の東の山手に見え、残存があります。1574年(天正2年)牛根城が陥落した後、島津家・第16代義久公は、武将「伊集院久道」を牛根の地頭として治めさせ、島津家の氏神である稲荷神社を創建し、崇拝させました。牛根城にあった荒神を降ろして来て合祀したともいわれています。現在は、大正3年の桜島大爆発の降灰で埋まり、鳥居を掘り出したものが現存するのみで、垂水市の指定文化財に登録されています。
牛根麓は早崎城・牛根城・入船城・松崎城とも言われる、山城の麓として栄えた町です。築城の年代は不詳ですが、源氏に敗れた平家がこの地に山砦を設けたとの説もあります。

▽参考資料
『垂水市史料集(八)牛根篇』垂水市教育委員会
『落日後の平家』永井彦熊