- 発行日 :
- 自治体名 : 北海道留寿都村
- 広報紙名 : 広報るすつ 令和7年8月号
■今月のテーマ…DOHaD(ドーハッド)説
筆者:留寿都診療所医師 大泉樹
「DOHaD(ドーハッド)説」とはDevelopmental Origins of Health and Diseaseの略で翻訳すると「健康・疾患の発達過程起源説」です。要するに大人や高齢になってから病気になる人は生まれる前や子どものころの生育環境に原因の一部があるということです。
■低出生体重児と巨大児
標準的な出生体重は2,501~3,699gです。2,500g以下を「低出生体重児」、4,000g以上を「巨大児」といいます。妊娠中のお母さんが低栄養で極端に痩せていたり、逆にお母さんが肥満で妊娠糖尿病や妊娠高血圧症行群を発症したりして子宮内の環境が悪化すると低出生体重児となります。低出生体重児で生まれた人は大人や高齢者になってから肥満、糖尿病、高血圧、心血管疾患になりやすいと言われています。また、巨大児も将来糖尿病や肥満になるリスクが高くなります。
■子ども期の逆境体験
子どもが育つ環境は、社会的にも経済的にも安定しているのが望ましいでしょう。2016年の日本の疫学研究で、生まれてから18歳になるまでに「親との死別」「両親の離婚」「家庭内暴力」「親の精神疾患」「身体的虐待」「心理的虐待」「経済的困窮」などの逆境体験が複数ある人は高齢になってから食生活が乱れたり、未婚や離婚のリスクが高く閉じこもるリスクが高くなったり、歯を失うリスクや認知症のリスクも高くなっています。
■ライフコース・アプローチ
「DOHaD(ドーハッド)説」に基づき「ライフコース・アプローチ」の必要性が提唱されています。
まずは妊婦さんへの適切な栄養、生活指導が子どもの将来の病気の予防に有効です。
恵まれない子どもへの援助も早ければ早いほど有効です。海外の研究で貧困家庭の子供に幼児教育と家庭訪問を2年間のみ行いました。40歳までの追跡で、教育をきちんと受けて職に就く者が増え、生活保護の受給や犯罪逮捕者が減ったとのことです。この早期の援助で忍耐力や自制心、やり抜く力などの「非認知能力」が向上したと考えられています。
また、海外の研究から予防可能な14の認知症危険因子が挙げられています。人生早期では「短い教育歴」、人生中期では「難聴」「脂質異常症」、人生後期では「社会的孤立」に適切に対応することによって45%の認知症発症予防効果があると言われています。
参考図書:日本医師会雑誌第154巻第2号2025.5