- 発行日 :
- 自治体名 : 北海道倶知安町
- 広報紙名 : 広報くっちゃん 令和7(2025)年4月号
■『無題』1971年小川原脩画
明るい空色に、ごく淡い緑色が広がる大地。土の色も少し見えて、白一色の雪の季節から色彩の季節へと移り変わった、爽やかな空気感が漂います。はるか地平線上には煙突のある家屋が見え、その屋根の残雪を見ると、まだまだ春本番は遠いよう。
その中央に大きく白鳥が描かれています。小川原脩は、馬・犬・大白鳥といった動物たちの姿を通じて、群れや孤独といった人間社会を投影したテーマで作品を多く発表しています。そのような中で、本作のように、愛嬌(あいきょう)があり、ユニークな姿を見せる個々の犬や白鳥も描いているのです。集団化する社会に対して、多様な個々の姿に温かなまなざしを向けていた小川原の人間性が浮かび上がります。
白鳥といえば、湖面をすいすいと進む優雅な姿を思い浮かべるでしょう。
ところが、小川原脩が描いたこの白鳥は、足を蹴り出したような動きをして、愉快に踊っているみたいです。春の陽気を目いっぱい受けて、新生活の第一歩が軽やかな足取りでありますように。
文:沼田絵美(小川原脩記念美術館副館長)