文化 鰊御殿とまり ごてん 令和7年2月号

■立春大吉
鰊御殿とまり館長 増川 佳子

今年の立春(旧暦では新しい一年の始まりの日)は2月3日。暦の上では春になります。お正月前に、“立春大吉”のお札が届きました。「これは、いつ、どんなふうに使うのだろう。」と気にしながらも仏壇の横に置いてありました。先日、その紙札の使い方が書かれている読み物に遭遇しました。(よかった。)そこには、次のように書かれていました。今年は、このお札を活躍させることができます。

「立春大吉」の文字はすべてが左右対称なので、半紙などに書くと裏から見ても「立春大吉」と読めます。そのため、一度門をくぐった鬼がまだ中に入っていないと勘違いして出ていったという逸話があり、厄除けになるとされています。このことから、寺や神社では、立春の早朝に「立春大吉」の紙札を貼ったり、お札を授与したりする慣習があります。このお札(もちろん自筆のものでも)を家庭の玄関や柱などに掲げ、新しい季節の始まりを祝います。

さて、『鰊御殿とまり』のお客様の中に「囲炉裏や火鉢だけでは寒かったでしょうね。」と顔をしかめられる方がいます。鰊番屋は煙突のない建物なのでストーブはなかったはずですから、さぞ寒かったことでしょう。そうなると食事を炊く“カマド”から出る炎と湯気の温かさが大きな役割を担っていたのかもしれません。
『鰊御殿とまり』川村家鰊番屋2階にある資料室には、村の方々から寄贈された生活用品を展示していますが、暖房器具がとても多いです。火鉢は大きい物も小さい物も、陶器製や金属製の物までたくさん並んでいます。木の枠でできている“こたつ”もあります。ずっと奥には石炭ストーブも。昭和の頃は寝室も寒かったのでしょう。陶器の湯たんぽや毛糸の袋にくるまれた“アンカ”(昨年寄贈されました。豆炭も入っています。)も並んでいます。
もうすぐ立春とはいえ北海道の 2 月は一番寒さが厳しい時期かもしれません。小学校の頃、手編みのボッコ手袋を2枚重ねて履き、長靴の上に脚絆(今でいうレッグウォーマー)を付けて登下校していました。スクールバスも送ってくれる自家用車もありません。毛糸の手袋は重ね履きしていても冷たい雪風が入ってくるし、長靴の中のつま先もだんだん凍えてきます。真っ白な吹雪の中、トラックに積まれたスケソから滴った血の跡を辿りながら泣きそうになって家に帰った記憶があります。吹雪の日は家族で暖を囲みながら夕餉の時を過ごし、大きな鍋に作られた甘酒で体を温め、湯たんぽや真っ赤になった豆炭が入ったアンカに温められたホカホカの布団に入り込む幸せ。そんな子ども時代を懐かしみながら、春を待ちわびる2月です。