- 発行日 :
- 自治体名 : 北海道泊村
- 広報紙名 : 広報とまり 令和7年8月号
■夏を快適に過ごす道具
鰊御殿とまり館長 増川 佳子
「夏は暑いものだけど、子どもの頃はこんなに暑くなかったよね」「暑いねえ。北海道じゃないみたいだ」。道産子の皆さんも内地からのお客さんもここ最近の夏の暑さには辟易しているようです。蒸し暑い風のない日は、冷房設備のない館内の解放可能な窓を全開にしても汗だくになってしまいます。「お盆が過ぎれば秋風が吹く」「暑さ寒さも彼岸まで」と期待し続ける毎日です。
館内の中で比較的涼しいのが、石蔵です。厚い石壁で囲まれた中に入ると、風が通っているわけではないのですが、ひんやりとした空気に触れることができます。今は扉を常時開け放していますが、扉に鍵を掛けていた時代には、この温度差のない空気が石蔵に収められていた品々を大切に守っていたのでしょう。
さて、この石蔵の2階の隅に“扇風機”がひっそりと置かれています。付けられている札には『昭和初期 扇風機』と書かれています。金属製の羽根の周りを太い針金のようなもので覆っていて、プラグが付いている電源コードが伸びています。電灯の初点灯が大正期(先月号で紹介)と推測されるとしたら、当時としては大層ハイカラなものであったと思います。
さらに、子どもの頃の夏は蚊やハエの煩わしさもありました。最近は、生活環境や家の気密性が向上したためか、蚊やハエの存在が気になることは減りましたが、半世紀ほど前は手足に蚊に刺された後が無数にあり、ハエ取りリボンには大きなハエが何匹もひっついていたのが、夏でした。不快な虫たちを退治する蚊取り線香やハエ叩きは今でもお目にかかりますが、珍しい“ガラス製ハエ取り器”が川村家鰊番屋2階の客間に展示されています。
[ガラス製ハエ取り器]
明治の終わりから昭和20年ごろまで、各家庭で使われていた。使い方としては、まず容器の底の折り返しの部分に、ご飯を炊く時に出る“吹きこぼれ”と水を混ぜたものを入れる。そして、台所や居間などのテーブルの上に、ハエを寄せるエサ(トウモロコシの食べカスや黒砂糖など)を置き、その上にハエ取り器をかぶせる。
こうしておくと、エサに寄せられてハエが底から入り込んで出られなくなり、やがて、折り返しの中に落ちてしまうわけである。
[波稲(ふるさと歴史館)より抜粋]
「ハエ取り器か。懐かしいなあ。」と思われた方はいらっしゃるでしょうか。バシッ、バンバンとハエを叩いてやっつけるのに比べると、どこか品がよく優しげな感じがします。
暑い毎日が続きます。お盆の準備や家族の帰省などで忙しくもなります。無理をせず、ご自愛されて、夏を上手に乗り切ってくださることを願っています。