- 発行日 :
- 自治体名 : 北海道東神楽町
- 広報紙名 : 広報東神楽 2025年7月号(第730号)
「お子さん、生まれるんですね!」
1人目の子どもの誕生を控え、私自身、初めての出生届を提出するにあたり、必要な書類などがないかを確認するために役場を訪れました。転入したばかりの慣れない町役場の窓口で、職員の方から興奮気味にかけられたのが、冒頭のひと言でした。
「いや、まだこれからなんですが…」
思いがけない反応に戸惑っていると、窓口の奥や隣の課からも職員が立ち上がり、「予定日はいつですか?」「一人目ですか?」「男の子?女の子?どっちでも楽しみですね」と、次々に笑顔で声をかけてくれました。
以前、別の役所での窓口対応であまり良い経験をしてこなかったので、書類を提出する際は入念に準備するようになっていました。さらに、これから親になるのだと気を張りながら、初めての子育てを控えていたタイミングでのこの対応は、まさに心がほどけるような出来事でした。町の「顔」である役場の窓口対応ひとつで、こんなにも安心感を得られるのかと、今でもよく覚えています。
令和5年(2023年)の国民生活基礎調査によると、全国の全世帯に占める児童(18歳未満の未婚の者)のいる世帯は18・1%でした。今や子育て世帯は、社会の中でマイノリティーになりつつあると言えるのかもしれません。かつては当たり前に耳にしていた子どもたちの声も、今では耳慣れない人にとって騒音と捉えられてしまうこともあります。
先日、東京出張からの帰りの飛行機で、近くの席に1歳くらいの子どもが母親と一緒に座っていました。離陸直後、慣れない機内の雰囲気に不安を感じたのか、しばらくの間、子どもの泣き声が響いていました。なかなか泣き止まない様子に、周囲の大人はどのように感じていたでしょうか。
ところが、着陸が近づいた頃、気流の乱れにより飛行機がまるでジェットコースターのように大きく揺れ、大人たちからは「うぉー」と驚きの声が漏れました。その瞬間、先ほどまで泣いていた子どもは何を感じたのか、キャッキャと楽しそうに笑い始めたのです。その無邪気な笑い声につられて、周囲の大人たちも思わず笑顔になりました。揺れる機内、叫ぶ大人、笑う子ども、つられて笑う大人たち――。
着陸後、機内ですれ違う人たちは、子どもに「頑張ったね」「すごく揺れたね」と笑顔で声をかけていたのが、印象に残っています。
子どもは泣くことこそが元気の証。そして、子どもたちの笑顔は、周囲に元気を与えてくれます。その理由はうまく説明できませんが、実際にそう感じられるのは、周囲の大人たちの温かいまなざしがあってこそだと、あらためて感じました。
傳馬淳一郎(でんまじゅんいちろう)
名寄市立大学保健福祉学部社会保育学科准教授。保育所保育士、学童保育・児童館での勤務の後、保育者養成に携わる。大学では、保育実習指導を中心に、子ども家庭支援論、家庭支援実践演習、保育者論等を担当している。子どもの育つ環境、保育者の養成とキャリア、離職等を研究テーマとしながら、保育者向けの各種研修や保育現場の公開保育、園内研修のサポートを行っている。