- 発行日 :
- 自治体名 : 北海道天塩町
- 広報紙名 : 広報てしお 2025年3月号
●私、60歳、看護師という職業と共に生きる
高校2年の夏休み明け、担任の先生に『進路をどう考えているのか?』と聞かれた。小さい時は「花屋さん」とか、「歯医者さん」とか自分が見た職業を思い浮かべていた。高校生になっても『なりたい職業』が見つけられず、それを探すために「短大に進学したい」と答えた(その頃の女子は大学ではなく短大が主流だった)。
3年になった時、親に進路について相談した。両親は「女は就職して結婚して家庭を持つこと」「うちは裕福ではない。女に短大に行く学費は出せない」とも言われた。それを聞いた弟二人は、「自分達は大学行かないから、お姉ちゃんを学校に行かせてあげて」と親に頼んでくれた。しかし親は「就職しなさい」と意見は変わらなかった。女の幸せは結婚なのか? そもそも私は結婚出来るのか? 結婚しても旦那さんが先に亡くなったら? 離婚しちゃったら? 私は一人で生きていけるのか? その頃には親はいないだろうし、弟にも頼ることなんてできない。一人で生きていける職業は何かを考え続けた。
そして17歳の私が考えた答えは、資格を持つ職業。それは美容師か看護婦(以前は看護婦と呼ばれてた)の二つだった。資格がある職業なら一人でも生きていける。美容師と看護婦どちらを選ぶか? 美容師は素敵な髪形にしてあげられなければ申し訳ない。また、自分で稼いで学費を出さなければ親を説得できないだろうと考え、小さな医院に住み込み、昼間は看護師見習いで働き、看護学校に通うという選択だった。本来だったら3年制の看護学校への進学だが、私は准看護婦養成の2年制、夜間の専修学校に進学した。親は「自分で決めて自分で進むのなら」と反対はしなかった。
誰が決めたわけじゃない自分で決めたこととはいえ親元を離れ、辛いことが多かった。辛くて公衆電話から母に泣きながら電話し「辛い」ということを話すと「もういいから戻っておいで」と電話口の母も泣いていた。でも、このまま地元に帰っても私の居場所はない。辛くても苦しくても自分が決めた道だから頑張るしかないと考え直した。今思い出してもあの2年間が私を強くしてくれた時間であったと感じる。
准看護婦となり留萌から札幌に出て新設の脳神経外科に就職。私の看護師としてのスタート。尊敬できる看護部長、師長、厳しい先輩、助けあう同僚、そして医療はチームであると教えてくれた院長先生。医療に携わる職種は上下関係ではなくチームの一員だった。脳・脊椎の専門病院、2次救急指定病院の看護師として沢山の学びと出会いがあった。看護師の先輩に「看護師人生なんてあっという間だよ、30過ぎたら坂を転げるくらいの早さなんだから、早く准看護師じゃなく正看護師に進みなさい」と言われ、また夜間の学校で3年間学び、正看になったのは30歳だった。
それからの看護師として仕事や生活は加速度を増して過ぎていった。自分が60歳、看護師としての仕事の定年になるなんて遠い未来の話と思っていたのに。先輩の言葉は本当だった。地元天塩に戻ってきて今年で12年、私は60歳になった。高校生の時に「地元には絶対戻らない」って決めていた。札幌でずっと看護師を続けると思っていた。札幌にいなければ看護師としての新しい知識や技術から遠ざかるような気がしていたからだ。でも、天塩に戻ってきて、それは自分の行動や気持ち次第であり、学ぶ気持ちがあれば住環境に関係なくどこに居ても学べると実感した。
脳外科の看護師の経験は十分あっても天塩に戻ってきたら、まるで新人。新生児から高齢者まで、どんな状況にでも対応できる町立病院の看護師はすごいと感じた。そして町民のみなさんのことをよく知っている頼れる存在であるとも感じた。大きな専門病院ではないけれど、町民を24時間断ることなく診療し入院療養の継続。専門性の高い治療が必要な時は繋いでくれる。町民が自分のことを知ってくれている病院スタッフが居る所は、都市部では考えられない。できないこともあるけれど、町の小さな病院だからこそ出来ることが沢山ある。顔の見える関係性、病院のみならず、役場の保健師や介護施設との連携、どの職種どのスタッフも患者さんや、町民の生活を支援し見守っている。そして、町民の皆様もまた、自分以外の誰かを支えている。人口2600人余りの天塩町だけど、ここには豊かで温かい人々の気持ちが詰まっている。
私は外来や病棟の看護スタッフ、今でいうナースエイド(看護補助者)の皆さん、そして他の医療スタッフの方々に支えられて師長という役割を担わせていただいたこと、まだ終わりではないけれど、振り返ると幸せな看護師人生だった。看護師という職業を、あの高校3年で決断した私は間違っていなかった。そして結婚できないかも?(結婚しないかも?)は意外と未来予想出来ていたのかも…。
あらためて、4月からは『師長』ではなく「佐々木看護師」と呼んでくださいね。そしてこれからも町立病院の応援とご支援をどうかお願い致します。ありがとうございました。
(看護師 佐々木千代子)
お問い合せ先:天塩町立国民健康保険病院
【電話】(2)1058