文化 歴史の風 [連載157]

■収蔵庫の宝物 職員のイチオシ資料紹介
□形象硯(けいしょうけん)
硯(すずり)は、奈良・平安時代の役人が文書事務に用いていた必須アイテムです。この時代に東北地方を治めた役所である多賀城では、多くの文書が作成されました。多賀城市内の各遺跡では、そうした文書の一部(漆紙文書(うるしがみもんじょ))や木簡が見つかっており、その一部は、令和6年に国の重要文化財に指定されました。市内遺跡ではこれら文字史料のほか、文字を書くために必要な硯が多数見つかっています。
奈良・平安時代の硯には、羊や鳥などさまざまな動物を象(かたど)った「形象硯(けいしょうけん)」という種類があり、この資料も、亀を象ったと考えられます。実際、奈良の平城宮跡(へいじょうきゅうあと)では動物を模した硯の出土例が多くあり、多賀城でも、中央政府の役所と同様の道具や文化が存在したと推測できます。
古代の人々にとって、亀はとても神聖な生き物でした。例えば当時の歴史書には、国王が行った政治の良さや正しさを天にいる神様が保証してくれたとして珍しい亀が地上に現れた、という記述がみられます。本当に現実に起こった出来事とは考えられませんが、この亀を模した硯から、古代の人々の仕事や暮らしだけでなく、信仰をも窺い知ることができます。

※紹介した資料は、9 月末まで埋蔵文化財調査センター展示室で見ることができます。

問合せ: 埋蔵文化財調査センター
【電話】368-0134