文化 こけし愛に導かれて 〜日本こけし館50周年〜

「日本こけし館」の由来記には「素朴な東北の心を永く世の多くの人に提供したいというねがいがこめられている」と記されています。
昭和50年に開館した「日本こけし館」は構想から完成まで約20年余りの歳月を費やしました。開館までの道のりは平坦ではありませんでしたが、こけしを愛する人たちの思いと夢が実を結びました。
令和7年9月で「日本こけし館」は開館から50年の節目を迎えます。「日本こけし館」の歩みと次世代へ鳴子こけしを継承する取り組みについて紹介します。

■鳴子こけしの歴史
江戸時代後期に、木地師(きじし)が子どものために玩具として作り与えたのがこけしの始まりとされています。その後、時代の流れとともに土産品として売られ、観賞用に発展しました。
「伝統こけし」は、主に東北地方で製作され、11の系統に分けられます。その中でも「鳴子こけし」は、首を回すと「キュッキュッ」と音が鳴るはめ込み式になっていることや、胴に描かれる「重ね菊」の模様が特徴的です。
また、工人の手で一つ一つ丁寧に作られたこけしは、姿や表情もさまざまで、工人の個性が色濃く現れる特徴が魅力です。

■日本初 こけし博物館の夢―深沢 要(ふかざわかなめ)―
「日本こけし館」の誕生に多大な影響を与えたのは、こけし研究家の深沢要氏(東京都出身)でした。
深沢氏は詩人兼童話作家でこけしをこよなく愛し、東北のこけし産地を精力的に巡り、研究に取り組みました。数あるこけし産地の中でも、特に鳴子温泉地域に愛着を持ち、工人たち一人一人の元を訪ね歩きました。
深沢氏は研究の成果を著書『こけしの追及』に残しました。その中で「こけし博物館」建設の構想を描きながらも昭和22年、夢が実現する前にこの世を去りました。
しかし、生前から深沢氏を知る人たちによってその意志は受け継がれ、鳴子温泉地域の温泉神社には歌碑が建立されました。これを記念して始まったのが「鳴子こけし祭り」(現在の「全国こけし祭り」)です。

■「日本こけし館」の誕生と深沢コレクション
歌碑の建立と「鳴子こけし祭り」の開催よって、深沢氏との関わりがさらに深まった旧鳴子町に、昭和28年、深沢コレクション(深沢氏が生前に集めたこけし)570点が寄贈されました。このコレクションの寄贈が契機となり、深沢氏の夢であった「こけし博物館」の構想が動き出しました。そして、昭和50年9月、ついに「日本こけし館」は開館しました。
深沢氏をはじめとする、こけしを愛した先人たちの思いが受け継がれた「日本こけし館」には、現在、名作ぞろいの深沢コレクションや東北各地の伝統こけしなど、さまざまなこけしが展示されています。「日本こけし館」に足を運んで、こけしの魅力に触れてみませんか。

■全国から寄せられた奉納こけし
「日本こけし館」開館のきっかけはもう一つあります。それは昭和32年から毎年、全国の工人たちがこけし祭りへ「奉納こけし」を送り続けたことです。
工人たちが、その技術の向上と発展を祈願し、温泉神社にこけしを奉納します。「全国こけし祭り」の成功などさまざまな願い、そしてこけしに対する感謝の思いが込められています。
奉納こけしは、こけしの歴史や文化を伝える貴重な存在として、今もなお大切に保存されています。

■「日本こけし館」開館50周年記念事業「奉納こけし展」
開館した昭和50年に寄せられた奉納こけしを一堂に展示します。
師匠と弟子のこけしを並べて展示するなど、さまざまな工夫を凝らした特別展です。
大切に受け継がれてきた工人の技と、素朴で愛らしい伝統こけしの魅力を堪能してみませんか。
期間:7月24日(木)~12月31日(水)
場所:日本こけし館(鳴子温泉字尿前74-2)
料金:大人500円、高校生300円、中学生200円、小学生150円
特典:期間中は市内の高校生以下入場無料
詳しくは、日本こけし館ウェブサイトを確認してください。

問合せ:日本こけし館
【電話】83-3600

■未来へつなぐ鳴子こけし
5月21日、「日本こけし館」開館50周年記念事業の一環として、こけしの材料となるミズキの植樹が行われました。
ミズキの木材は白くキメ細やかで、節や年輪があまり目立たないという特徴があります。その特徴から工芸品の製作に適しているため、多くの鳴子こけしの材料として使用されています。
当日はこけし工人など約15人が参加し、50本の苗木を丁寧に植えました。ミズキの苗木は植えてから材料として使用できるようになるまで、約20年の歳月を要します。今回植樹したミズキは、未来の鳴子こけし作りを担う工人たちに受け継がれます。