文化 中山町歴史散策 第213話口誦文芸(5)「瞽女(ごぜ)説地震身上」その5

「瞽女説地震身上」には、文政11年11月2日朝五ツ時の越後大震災を語りながら、日頃人々が奢りにふけり、自らの職分を忘れて遊興三昧、みな奢侈(しゃし)に流れた報いとしてこのような大地震が起こったものだといい、その世の中の乱れを微に入り細にわたって書き記しています。武士、商人、僧、神主、姑、嫁からあんま師に至るまで、手厳しい批判であり、医師の不勉強を責めています。下々の者は、口先上手や派手な衣服をまとう者に目も耳も惑わされてはいけないこと、身分の高いものは低いものに慈悲の心で接すること、つねに節倹(せっけん)に心掛けることを説くに至っては、その筆者は立派な社会改革派でした。
果たして、この台本に聴衆はどのように反応したのか、憶測の域を出ませんが、娯楽の乏しい幕末の弘化、嘉永時代はもとより、明治30年台、最上村の頃にも語られていたのでしょう。
この中で興味を引くのは、新潟地震で地盤の「液状化現象」が起きた記述です。もともと新潟の海岸部の隆起と、信濃川、阿賀野川の洪水で砂泥が堆積したところで、既に150年も前に地震で地下から水や砂が吐き上げた現象を、多くの人々が見ていたということです。
この「瞽女説地震身上」のほか、秋葉弥右衛門家の「最上川稲船太平記」は、短編小説風の作品で幕末の「兵蔵一揆」を題材としたものです。庶民の側から一揆の姿に声援を送る場面も描かれ、文体もしっかりしています。おそらく、伊勢参詣の折、土産物として買い込んできた草紙を擬した文体が下敷きになっているのであろうと思われます。
また、「日記」の類にも「旅日記」「江戸駕篭訴(かごそ)日記」「農事日記」などがあり、文章文体に文芸作品に劣らぬものもあって、何れの機会に、取りまとめて、刊行する価値が残されていることを附記しておきます。

■語句の説明
奢侈:度を過ぎてぜいたくなこと。身分不相応に金を費やすこと。また、そのさま。
節倹:出費を控えめにして質素にすること。また、そのさま。節約。
駕篭訴:幕府の重職にある人や大名などの駕篭が通行するのを待ち受けて直訴すること。

※引用
中山町史中巻第10章第3節文芸と美術工芸