文化 相馬野馬追特集 伝統と誇りの継承 連錦と

一千有余年の歴史を誇る「相馬野馬追」が、間もなく開催されます。当地方を代表する伝統行事は、馬と多くの人たちに支えられてきました。馬と共にある暮らしの中で、年に一度の晴れ舞台にかける人々を点描しました。

◆野馬追を支える引退競走馬
南相馬市では、令和6年時点で255頭の馬が飼育されており、その中には市内で「第二の馬生」を過ごす引退競走馬も含まれています。近年、引退競走馬の一部が野馬追に出陣し、SNSで大きな話題となるなど、引退馬のセカンドキャリアという視点から野馬追が注目を集めています。
3月の早朝5時、原町区の厩舎(きゅうしゃ)を訪ねると、尾花栗毛の馬が顔をのぞかせました。渡部洋寿(ひろし)さんの愛馬・キネオストレッタです。
渡部さんの初陣は、高校1年生。「実家の花屋から御下がり奉賛会の様子が見えるんです。叔父が出ている行列を見たら、自分も出たくなって」。当初は馬を借りて出陣していましたが、宵乗り競馬で思うような結果が出せなかったことから、自分で馬を飼って世話をするようになりました。
キネオストレッタは、平成23年生まれの14歳馬。東日本大震災の年に生まれました。平成25年から平成27年まで東京・中山・福島の競馬場でレースに出走しました。その後、競走馬を引退し、平成27年5月に渡部さんのもとに来ました。食いしん坊で黒糖が好物。野馬追特有の馬具にもすぐに慣れ、翌年、キネオストレッタは“初陣”を飾りました。
「馬は家族の一員。最初に出会った時と顔つきが変わってきて、成長がみられた」という渡部さん。引退馬が新たな道として野馬追の伝統を一緒に継承することは、馬にとってもいいことだと。今年は、渡部さんにとって記念すべき30回目の出陣です。相棒“キネ”と薫風を駆ける喜びを噛み締めています。

◆未来へ伝統を紡ぐ女性騎馬武者
今年2月に「未婚の20歳未満」とする出場制限が撤廃され、20歳以上の女性も出陣できるようになりました。4月15日時点で393騎の出場申し込みのうち20歳以上の女性8人から出場申し込みがありました。小高郷の阿部日向子(ひなこ)さんも、そのうちの一人として出陣を予定しています。
阿部さんは野馬追に出陣する父親の影響で幼い頃から馬に親しみ、小学3年生には一人で馬に乗れるようになりました。小学5年生で初陣を果たし、大学進学後は乗馬クラブでさらにその技術を磨きました。馬術競技を続けるため、関東で就職した後も頻繁に南相馬に戻り、愛馬・コスモミーティアの世話を続けています。
これまで“コスモ”と共に多くの大会に出場し、信頼関係を深めてきました。阿部さんによると、コスモは群れでいるより一頭でいることを好む馬だそうですが、神旗争奪戦では群れの中へ堂々と向かっていくそうです。阿部さんにとって家族同然の存在だといい「人間の年齢に換算すると“おじいちゃん”なんです。ケガを防ぐためにテーピングをして、大切に乗っています」と語ります。その目には愛情と責任感が光ります。
阿部さんは平成30年に最後の出陣を終えた後、知人の出陣をサポートしてきましたが、女性騎馬武者の出場制限が見直されたことを機に、26歳で再び野馬追に出陣することを決意しました。「以前はルールが変わらないと思って出場を諦めていましたが、この機会にもう一度出陣しようと決めました」と語ります。
野馬追の魅力について尋ねると、「野馬追に思いをかける人々の存在です」と答えてくれました。「馬がいるからこそ私たちは野馬追に出場できる。馬と無事に帰ってこられることが私にとって一番大切です。これからもずっと馬に関わり続けたい」と強い決意を示しました。