その他 美しい大玉村

■花・野菜・植物たち(6)
箱﨑美義 著

◇(5)つづき
悪戦苦闘の末、なんとか大地、野原などにたどりつくことができたタネ(種子)である。地上で水と酸素を吸い、ほどよい暖かさと光(陽)の恵みのもとで命の誕生が始まる。それは、まさに千載一遇のとびっきりの幸運児であるといわざるを得ない。
順調に芽ばい生長し続けると、5カ月間でりっぱな大人となる。いつ、どこででも陽のある限り花を咲かせ、性の営みとタネ(種子)まきをくり返す。とてもめずらしいのは、1つの株、体に花蕾、咲く花と冠毛をつけたタネつくり、そしてタネまき(蒔)を毎年4月頃から11月頃までの長い間にわたって、これをくり返し続けるという野草、雑草はめずらしい。それは、自分でせっせと性を営むかたわら、せっせとタネをつくり、ばらまいていることだ。いったい、なぜ、こんな芸当ができるのだろうか。
タンポポは、暑さ寒さにとても強いが陽がないのには、からっきし弱い。生まれつき小さな体なので、周りからすぐに取り覆われ囲まれてしまう。すると、たちまち陽の目見ずに消され、はかない一生の終りとなる。もし一時しか花が咲かず、性の営みができなければ、たちまち種族が絶滅し、この世の花でなくなる危険が高い自分をタンポポは、よく知っているからだ。それでは、仲間をふやすもとのタネをどうやって遙か彼方にまでばらまくことができるのだろうか。これは、興味深いことだが、どうやらその秘密は花に隠されているようだ。
花のがく(萼)は、タネをしっかり抱え、育ち盛りは、まったく目立たず、もっぱら養育と母親とのきずな役につとめる。ところが親から離れた子孫としてこの力をもつと今度は、がく(萼)は、タネまき役にまるっきり変身する。
見ると真綿色した毛(冠毛)で扇形に傘をつくり、柄の下にしっかりとタネをつけたパラシュートができあがる。遠くばらまくための手段だ。空の旅の準備は、これでOKとなる。一つの花茎の先に丸くびっしりと勢揃いした旅立つ寸前のパラシュート姿からは、花時の花形のイメージは、まったくない有様だ。
はたして風などにうまくのってより空高く舞い上がることができるのだろうか。そして無事に地上に舞い降りることができ、その旅先にどんな出会いが待っているのだろうか。そんな不安を、どのパラシュート、タネも隠し切れず旅立つその瞬間を待ちわびているかのように見えてならない。その数は、村内でも無限大ほどである。