- 発行日 :
- 自治体名 : 福島県新地町
- 広報紙名 : 広報しんち 令和7年4月5日号
■狸と狐の駆けくらべ
昔々 狐と狸が道でばたっと行き会ったと。
はじめはお互いに、なんと言うことはねぇ世間話をしていたったとも、そのうち自慢話になっちまったと。
「なんつったって狐ぐれぇ利口なものはいねぇどな」と言えば「いや、狸のほうが利口だべ。狐の場合は利口って言うよりもずる賢いって言うんだべ。」と言い返すと、「狐はすばしっこいから夜は海に行って七浜廻って魚を拾い、昼は山に行って八沢めぐって旨いものを拾うから、いっつも旨いものばかり喰ってる。それに比べて狸は太ってっから動きも鈍くて、まずいものばかり喰っていっぺ。」と狐が言えば「なにぬかす。狐は旨いもの喰っているって言うども、うめぇものなんどそうあるもんでね。少ししか喰われねぇがら、ほだにやせ細っているんだべ。見ろ、俺たちは何でも喰うからこだに丸々と
太ってるんだぞ。」と言い返すと。
「ふん。狐は正一位(しょういちい)稲荷大明神様のお使いとして、日本全国津々浦々、祀られているんだぞ。」と言えば
「狸だってな、茂林寺(もりんじ)※1の文福茶釜(ぶんぶくちゃがま・ぶんぷくちゃがま)の狸様はお寺に祀られて、多くの参拝者でにぎわってるんだぞ。」と言い返す。
とうとう最後にはどちらが言うともなく「ほんで何かで勝負すっぺ。どっちが優秀か決めっぺ。」ということになってしまったと。
「よし、駆けくらべで決めっぺ。昔、ウサギと亀は山のてっぺんを目指して駆けくらべをしたべ。
俺たちはウサギと亀とは反対に山の頂上からふもとまで走ることにすっぺ。」と狐が言うので、後に引き下がれなくなった狸は、しぶしぶ承知したと。
山の頂上の一本松のところから、「よーい、どん!」と、ふもとのお地蔵様のところを目指して二匹は走り出してと。
狐は自慢の足で飛ぶように走り下りて行ったと。足の遅い狸は、ちょこっと走っただけで息が切れんだと。
「尋常な方法では勝つことはできねぇな。」
息を切らしながら狸は一計を案じたと。
まず、頭をへそのあたりに曲げて、しっぽをくるんと抱え込み、てんまりのようにまん丸なったと。そして目をくっちゃぐって※2、ふもとを目指して一気に坂をごろごろと転げ下りてきたと。
「はぁ…着いた…はて、狐はどこだべ?」
狸が眺めてみたっけば、狐はまだ坂の真ん中あたりを息を切らせて走り下りているところだったと。
こうして狐と狸の駆けくらべは狸に軍配が上がったと。
※1 茂林寺 もりんじ。群馬県館林市にあり、「文福茶釜」が残るお寺。
※2 くっちゃぐって 目をつぶって
新地語ってみっ会では、語り部による昔話や紙芝居など毎月第3土曜日13時30分から二羽渡神社南、おがわ観海堂(小野俊雄宅離れ)にて参加費無料で、公開しています。興味のある方はぜひご参加ください。
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