- 発行日 :
- 自治体名 : 福島県新地町
- 広報紙名 : 広報しんち 令和7年9月5日号
■百万遍の狐
昔々ある所に爺様と婆様がいたったと。
年の暮れになって、子や孫が歳取りに来っぺなと思って、爺様は坂元の歳取り市に買い物に出かけて行ったと。
お正月の用意やら生魚やらどっさり買って、中山通って新田の百万遍に通りかかったと。あたりほとりはすでに薄暗くなっていたと。
爺様が暗くならないうち帰ろうと急いで歩いていたっけ、後ろの方からひたひたと追いかけてくる足音がするんだと。
「隣の爺様。隣の爺様」
振り向くと若くて美しい娘が声をかけてきたと。爺様が立ち止まってみたれば、知らない娘だったと。
「はて?見たことない顔だなぁ。どこの娘だべ」って聞いたっけ。
「なぁんだべ、爺様ボケたのがい?おら、隣の娘だべした」って言うんだと。
娘は、爺様よりも大きな生魚を手に下げていたったと。娘は、
「おらも坂元の歳取り市さ行って、正月の生魚買ってきた。爺様のよりも大きな魚買ってきた。」
と言うと重そうに下げている大きな魚を爺様に見せたっけと。
「爺様。爺様。せっかく買ったども大きな魚を買いすぎた。家に帰るまで、まだまだ歩かなくてはなんねぇのに、重くてなんねぇ。爺様のところは、お正月には娘が孫連れてくっぺ。大勢集まっぺ。
そればかりの魚では足りねぇべ。おらのおっきな魚と爺様の魚と取っ替えてくれねぇが。」と言うんだと。
爺様考えたと。あの欲たがり婆様のことだ。
「こだちっちぇ魚買ってきて。」
って文句たれっぺ。大きな魚と取り替えてくれると言うのなら取り替えてもらうべ。
「ほんでは取っ替えでもらうがな。銭をなんぼたせばいいべ。」
すると娘は笑って、
「隣の爺様。銭なんどいらねでば。」って大きな魚と爺様の魚を取っ替えてくれたっけど。
爺様、儲かったとホクホク顔で、暗くなんねぇうちに急いで家さ帰ったと。
「婆様、婆様。今帰ったど。見でみろこの大きな魚。こんけ大きかったら娘や孫が来ても大丈夫だべ。ほらこの魚見でみろ。」
「どれどれ」
婆様、手を拭きながら台所から出てきて魚を手にしたと。
「なんだべぇ爺様。これは魚ではないべした。」
婆様が驚いた声で言ったと。
「魚でないなんて事あっか。」
爺様みてみると、なんとそれは魚でなくて百万遍の古びた卒塔婆であったと。
「ありゃ…百万遍の女狐に騙さっちぇ、まんまと魚を取り上げられちまった…。」
爺様、地団太を踏んで悔しがったども跡の祭りだったと。
新地語ってみっ会では、語り部による民話コーナーや紙芝居などを毎月第3土曜日13時30分から二羽渡神社南、おがわ観海堂(小野俊雄宅離れ)にて参加費無料で公開しています。
興味のある方はぜひご参加ください。
問い合わせ:新地語ってみっ会
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