くらし 特集 まちと道(1)

人が歩き、顔を上げて出会い、そこから新しい価値が生まれる。
歩くことで生まれる偶然の出会いが、私たちの日常を少しずつ変え、まち全体に活力をもたらします。

ただ歩く――
そのシンプルな行動が、出会いやクリエイションを生み出す場所を創る。
この特集では、「居心地が良く歩きたくなるまちなか」を実現するための取り組みやその意義について、国内外の事例を交えながら深掘りします。

■那須の魅力を再発見!〝ウォーカブル(※)〟と〝駅前〟の可能性を感じた2日間
昨年11月1日・2日の2日間、那須塩原駅西口周辺の公共空間を舞台に、駅周辺の新たな可能性を探る実験的な取り組み「D’harvest Walk Fest(ダーベストダウォークフェスト)(以下DWF)」を開催しました。食をテーマに企画したこのイベントでは、道)路などの公共空間を一時的に歩行者専用空間として活用し、多くの市民や来訪者が集い、語り合い、那須の魅力を再発見する場となりました。
※ウォーカブル(Walkable)とは、”歩く(walk)”と”できる(able)”を組み合わせた造語で、「歩きやすい」や「歩くのが楽しい」という意味。車中心のまちづくりから、歩行や公共交通機関による移動方法を中心とするまちづくりへのシフトを指す際にも用いられます。

▽社会実験としての狙い
交通:那須塩原駅西口の市道東那須野大通り線の3/4車線を封鎖し、道路・駅前広場などの公共空間を別の用途に活用する可能性があるかを検証。
にぎわい:道路などの公共空間を利活用し、歩いてまちを楽しむ体験を市民、来場者に感じてもらい、まちづくりの気運を向上。

〝D’harvest〟(ダーベスト)は、馴染みの深い方言「だべ(〜でしょう?)」「だべる(おしゃべりをする)」と「ハーベスト(=収穫祭)」を掛け合わせた造語です。DWFは、農業産出額全国10位でもある本市を特徴づける産業の賜物(たまもの)〝食〟をテーマに2日間にわたって行われました。
1日目の「ダーベストロングテーブル」は、全長約100メートルの会場にずらりとテーブルを並べ、一夜限りの食卓を囲んで那須の食の恵みを楽しむ企画です。道路空間に設置された特設キッチンで豪快に調理されたパエリアなどの料理200人分を取り分け、みんなで「いただきます」。食材を提供した農家、それを調理した料理人、地域を超えた参加者が同じ食卓を囲み、これまでに無かった車道での食体験を通じ、一期一会の出会いや語らいを楽しむイベントになりました。
2日目の「ダーベストウォーク」は、那須の食がまるごと楽しめる〝歩ってだべって楽しい収穫祭〟。チーズピクニック、ファーマーズマーケット、フードマーケットなど、約350メートルの会場をテーマの異なる5つのエリアに分け、地元の農産物を使った飲食店など約70店舗が軒を連ねました。会場の一角では那須の未来をテーマにしたトークイベントも開催。那須エリアの魅力の話題で盛り上がる登壇者の会話に、うなずきながら耳を傾ける家族連れの姿も見られました。
来場者や出店者からは「普段は車で通り過ぎてしまう場所で、歩くことで新しい発見ができた」「顔を合わせて会話する楽しさを改めて感じた」などの感想が寄せられました。
道路空間を利活用して那須の食、人との会話や出会いを楽しむきっかけとなった2日間。来場した6千人以上が普段と異なる公共空間の使い方に可能性を感じたのではないでしょうか。DWFの開催は、那須塩原駅周辺が那須エリアの玄関口として、より魅力的な空間へ転換するイメージを示す象徴的なイベントと言えるでしょう。