くらし 特集 まちと道(2)

■歩くほどに人とまちがつながる、古来から「道」を軸に築いてきた大衆文化を今こそ取り戻す。
昔から道、広場、公園、河川敷など、誰もが自由に出入りできる「公共空間」は、人の出会いの場となってきました。特に「道」は、民有地と民有地をつなぐ役割を果たすまちの営みの中心軸でした。しかし、長らく日本の地方都市におけるインフラ整備は、車による移動を前提に進められてきました。道は誰のためにあるのでしょうか?今こそ空洞化が懸念される中心市街地から〝居心地が良く歩きたくなるまちなか〟をつくり、にぎわいや活気を取り戻す必要があります。

●コミュニティや経済活動の軸だった「道」
「今晩一杯やるか?」
偶然の出会いからそんな会話が聞こえてきそうな江戸のまちなか。人でにぎわう光景が時代劇などでしばしば登場しますが、「道」は場所と場所をつなぐ役割に加え、人同士が偶然出会う舞台の役割を果たしてきました。そうした人の交流によって物の売買などの経済活動が生まれ、まちとして発展してきたのです。そんな営みと文化が交差してきた道は、戦後の車社会の発達とともに移動の利便性向上が強く求められるようになり、大きく役割を変えてきました。

●車中心のまちづくりに見えた課題
戦後の高度経済成長に伴って、日本の都市開発は急激に進展しました。この時期、自家用車が急速に普及したこともあり、都市設計は車による効率的な移動を重視した、「車中心」のインフラ整備が行われてきました。車中心の考え方は、移動の利便性を大きく向上させた一方、郊外への住宅地の拡大、都市機能の分散を招きました。その結果、駅前などの中心市街地の人口や店舗、事業所などの空洞化が問題視されることになりました。買い物をする場所など、生活に必要な機能が徒歩圏内になければ車に頼らなければいけません。
今後、人口減少に伴い税収が減っていくことを考えた場合、この郊外型都市構造を前提に上下水道や道路などの生活インフラを維持することは困難です。そんな今だからこそ、中心市街地の居心地の良さを追及し、求心力のあるエリアを核とした市街地の形成を図る必要性が高まっています。

●まちづくりのキーワードは「WE DO(ウィードゥ)」
国は、「居心地が良く歩きたくなるまちなか」づくりを推進しています。鍵となるのがキーワード「WE DO」です。これは、人々が居心地が良いと感じる4つの要素の頭文字を組み合わせたもの。さまざまな立場の人が往来し、にぎわいを見せていた江戸のまちなかのように、人々が自然と集い、交流する中心市街地こそが、今の地方都市に求められているのではないでしょうか。
その実現には、まち自体がまるで自分の家のリビングルームのような快適な居場所になり、多くの人が集まる空間づくりを進める必要があります。

▽歩きたくなる (W)alkable
居心地が良い、人中心の空間を創ると、まちに出かけたくなる、歩きたくなる。

▽まちに開かれた1階 (E)yelevel
歩行者目線の1階部分に店舗やオフィスがあり、ガラス張りで中が見えると、人は歩いて楽しくなる。

▽多様な人の多様な用途、使い方 (D)iversity
多様な人々の多様な交流は、空間の多様な用途、使い方の共存から生まれる。

▽開かれた空間が心地よい (O)pen
歩道や公園に、芝生やカフェ、椅子があると、そこに居たくなる、留まりたくなる。

居心地が良く歩きたくなるまちなかのイメージ
(出典:国土交通省)

※詳細は、本紙またはPDF版をご覧ください。

民間空間:1階をガラス張りの店舗にリノベーションし、アクティビティを可視化 and 民間敷地の一部を広場化(宮崎県日南市)
街路:駅前のトランジットモール化と広場創出(兵庫県姫路市)
街路:道路を使った夜間オープンカフェ(福岡県北九州市)
公園:公園を芝生や民間カフェ設置で再生(東京都豊島区)
広場:2つの開発の調整により一体整備された神社と森(東京都中央区)

※上記図表は、国土交通省の公表資料を基に作成。