文化 芸術祭が始まる

◆街の時間を描くには?藝大生・中村光佑(なかむらこうすけ)君の《Elapsed Time(エラプスタイム)》
東京藝術大学美術学部絵画科准教授 アーツ前橋チーフキュレーター 宮本 武典(みやもと たけのり)

桐生では30年前から、東京藝術大学の教員や学生がまちなかの元織物工場や古民家を拠点に創作活動を行ってきました。今50歳の私が学生時代に先生に連れられて桐生に入った第1世代。それが時を経て教員になり、2年前からサクラマスのように教え子を連れて帰ってきて、重伝建地区のゲストハウスを根城に学外演習を実施しています。内容は「写生旅行のようなイメージ」とお伝えすれば、わかりやすいでしょうか。
昨年のプログラムに参加した中村光佑君は、アースケア桐生が岡遊園地の観覧車を描きました。残暑の中2日間、重伝建の路地を隅々まで歩き回っても、描きたい対象が決まらなかった中村君。ふと見上げた山の中腹に可愛らしい観覧車が回っているのを見つけ、気晴らしに乗ってみたそうです。「さっきまで汗だくで歩いていた路地を、鳥の目線でふかんしている自分が面白かったです。」と、ゴンドラのスケッチを見せてくれました。
中村君が完成させた12点組の絵画《Elapsed Time(経過時間)》は、観覧車のゴンドラが1周するのに要する「6分」がテーマです。この絵について彼は、「たった6分でも、決して巻き戻せないこの街の小さな歴史、時のかけがえのなさを描きました。」と説明してくれました。12枚のゴンドラはどれも同じようですが、よく見ると表面の影や窓に反射する風景が少しずつずらして描かれており、時の移ろいを丁寧に写しとっていました。

このコーナーでは、このように若き芸術家たちが桐生をテーマに制作した作品を紹介していきます。来年の秋にはこれらを一同に集めて、芸術祭を開催する計画です。藝大生たちの桐生での学びを応援したいという方、ぜひご支援をお願いします。