文化 私たちと文化財 300

■仏法寺請雨池から出土した杮経
平成15年に極楽寺と坂ノ下の両地区にまたがる山稜部の発掘調査を実施し、仏法寺(ぶつぽうじ)と考えられる礎石(そせき)建物の跡や池跡(請雨池(あまごいのいけ))を発見しました。仏法寺は、中世の極楽寺の有力末寺で、『極楽寺境内絵図』には、仏法寺本堂の傍らに文永8年(1271)6月に行われた、日蓮と忍性(にんしょう)の雨乞い合戦の伝承がある「請雨池」も描かれています。
請雨池は、降雨の際に雨がたまるような直径4メートル程の小さな窪みで、部分的に発掘調査を行ったところ、堆積土から6400点以上の杮経(こけらきょう)が出土しました。杮経とは、木を薄く剥いで短冊状にし、そこに墨でお経を書いた経典のことで、法要の際に池などの水中に沈めることもあります。出土した杮経は長さ215ミリ、幅13ミリ、厚さ0.5ミリ程度のものでした。発掘調査では、鎌倉時代後半と室町時代の2つのまとまりがあったことが明らかになっています。
この杮経の整理や保存処理などを行ったところ、鎌倉時代と室町時代では、形状や筆跡に差があることが分かってきました。鎌倉時代の筆跡は数パターンであるのに対し、室町時代の筆跡は14パターン以上もありました。これは、法要の内容や規模が関係していると考えられます。さらに経典の内容は大部分が『法華経(ほけきょう)』であるものの、一部に『仏説甚深大廻向経(ぶっせつじんしんだいえこうきょう)』という珍しい経典が含まれていました。中には「龍神」の語もあり、日蓮と忍性の雨乞い合戦の伝承を裏付けているのかもしれません。

文化財課では、過去の発掘調査の出土品について、再整理や保存処理、デジタル公開などを進めています。仏法寺跡出土の杮経の内容についても、より詳細な調査をする中で新たな知見が得られました。この研究成果は、市ホームページでも閲覧できる『鎌倉市教育委員会文化財調査研究紀要』第7号に掲載予定です。
[文化財課]