- 発行日 :
- 自治体名 : 福井県鯖江市
- 広報紙名 : 広報さばえ 令和7年10月号 通常版
■第369回 文化財編(46) 霊山に抱かれて川島の武人を偲ぶ
下層から方形の地輪(じりん)、円形の水輪(すいりん)、三角形の火輪(かりん)、半月形の風輪(ふうりん)、最上層に団形(だんぎょう)の空輪(くうりん)を頂く五輪塔は、宇宙の生成要素を象徴的に表す卒塔婆(そとば)で、主に武士層の墓塔として各地に造立されました。三里山北麓、中世に栄えた蓮華寺末流の専立寺にも、戦国大名朝倉貞景(さだかげ)(3代当主)の子で、宗滴(そうてき)の跡を継いで敦賀郡司となった景紀(かげただ)の戒名を刻む地輪が遺されています。
加賀や若狭への侵攻で功をあげた景紀は、晩年を川島庄の光厳寺で過ごし、元亀3年(1573)5月1日に亡くなると、遺骸は蓮華寺奥坊に葬られて五輪塔が建立されました。その翌年、一乗谷が織田信長の戦火にかかると、景紀の墓所を荒らされることを恐れた住持によって五輪塔は竿石に笠石を置いた簡素なものに改められ、乱世を凌いだと専立寺は伝えています。
現在、朝倉氏の栄枯盛衰を見た地輪は、神仙の住まう理想郷を表すように鶴亀や蓬莱山(ほうらいさん)を模した石組が美しい池泉式庭園の傍ら、歴代住持の墓所中に佇みます。往古、川島城や大寺院があったという三里山を借景とした庭園は、苔むす石に悠久の時を重ね、戦国の物語を未来へと密やかに繋ぎます。
(文化課 藤田彩)
◇平成28年度指定の市指定文化財(1)
専立寺庭園(川島町)
朝倉景紀五輪塔地輪(川島町)