くらし [連載]未来を懸命に志す県民インタビュー 山梨懸人

◆ワイン県の〝もったいない〞を夢の資源に
株式会社中村商事 代表
中村文昭

山梨のワインづくりの裏側で、毎年大量に捨てられているブドウの搾りかす「ワインパミス」。
この〝もったいない〞を資源に変えようと挑んでいる人がいる。
「目標は、廃棄ゼロ」
ワインパミスで新たな可能性に挑戦する、奮闘ストーリー。

▽キラキラ光る〝厄介者〞との出会い
2015年の夏、取引先のワイナリーを訪ねた中村文昭さん(56)が店の裏に行くと、ワインのいい匂いが漂ってきた。そこには、ねじり鉢巻をした従業員が、困り果てた様子でブドウの搾りかすを処理する姿があった。
「ブドウの果汁が太陽に照らされてキラキラ光っていた。捨てちゃうんですか?と聞くと、〝腐るとコバエが湧いて悪臭がするから〞と言われました」
おいしそうなのに、もったいない–。食品を扱う会社を経営する中村さんは、興味本位で少し譲ってもらった。ご飯にかけたり、味噌汁の具にしたり、ビール漬けにして試してみたが、酸っぱくて食べられない。
それでも諦めなかった。今度は搾りかすを乾燥させ、すり鉢で粉末にして、バニラアイスにかけてみた。すると、酸味と甘みがマッチして驚くほどおいしかった。
「偶然の発見でした。これは使い方次第で生まれ変わるかもしれないと思ったんです」
ワインの製造過程で発生するブドウの果皮や種などの搾りかす「ワインパミス」は、県内だけで年間1万トン近くが廃棄されていると推定される。中村さんは「産業廃棄物にするには費用がかかるため、県内のワイナリーも廃棄に困っていると聞きました」と話す。調べてみると、ワインの本場であるフランスやイタリアでも同じ問題を抱えていた。
ならばワインパミスを活用して地域支援しようと、ワインパミス事業「RE-WINE」を立ち上げた。2年間の試行錯誤の末、2017年にワインパミスを粉末とペースト状にした食品添加物を商品化した。
しかし、県内の展示会に出展すると思わぬ反応が返ってきた。
「ゴミを食品にしちゃダメだろう、と怒られました。県内ではワインパミスは〝捨てるもの〞という意識が強くて…まったく相手にされず、全滅でした」
大きな転機となったのは、東京のフードセレクションに出展した時のこと。全日本空輸(ANA)の担当者が中村さんに声をかけたのだ。
ワインパミスはポリフェノールの数値がワインより高い。SDGsの観点からも魅力がある。1年がかりの審査を経て、国際線ファーストクラスの機内食に採用された。
2019年からコロナ禍が始まるまでの半年間、粉末を生地に練り込んだワイン色のパンがアメリカとハワイ行きの便で提供された。「全日空で使われたなら安心だと、ネームバリューが上がりました。ゴミではなく、ワインの副産物という良いイメージを持っていただけるようになったと思います」

▽ワインパミスの伝道師
これまで世に送り出したワインパミス製品は100種類以上。
高級チョコレートのGODIVAや東京ディズニーランドホテル、豪華客船飛鳥3.号とコラボ商品を発売した。企業からの問い合わせも増えた。
しかし、認知度の低いワインパミスは主原料になることはなく、レギュラー商品にはなっていない。また、人手不足も悩みだ。ワインを製造する7月から11月まで、ブドウを絞るタイミングに合わせてワインパミスを回収するため、1日に5軒のワイナリーをトラックで回ることもある。
中村さんは「決して、順風満帆ではない」と苦笑する。それでも、「ワインが好きだし、山梨に貢献したいから」という思いで10年続けてきた。
「私は〝ワインパミスの伝道師〞です。『自分もやってみたい!』と手を挙げてくれる人たちを繋いで、産業クラスターを起こすのが夢です」
初めは年に数キロだったワインパミスの仕入れ量は徐々に増え、いまや80トンに。主に食品や飼料として販売する。収穫期真っ盛りで、倉庫にはワインパミスの袋詰めがわんさと積まれていた。社会全体の意識が変われば、これが「宝の山」に化けるかもしれない。

◆ここがヒント
県内には約90のワイナリーがあり、年間1万トン近いブドウの搾りかす「ワインパミス」が発生している。ワインパミスには、レスベラトロール、タンニン、アントシアニンといったポリフェノール成分が、ワインよりも高濃度に含まれているという分析結果もある。山梨県では、こうした副産物の再利用をはじめとするSDGsの取り組みについて、登録制度の運用などを通じて推進している。

◆HISTORY
1969 都留市生まれ
2005 食品会社「中村商事」を創業
2015 ワインパミス事業「RE-WINE」を開始
2019 ワインパミスがANA国際線の機内食に採用される