健康 歯の健康特集(1)

監修:市歯科医師会 会長 逸村 一紀氏(いつむら歯科クリニック院長)

■口腔の健康を守ることが全身の健康を守る第一歩
◇お口のトラブルは先延ばしにしがち…
口腔は、ご飯を食べる、話をする、呼吸をする時などに重要な働きを担う場所です。皆さんは、ご自分やご家族のそんな大事な器官について、何か気になることはありますか?
歯や口の中のトラブルは、体の中の器官と比較して、実際に目に見えて自分の手の届く場所であるためか、不調があっても軽視したり、受診を先延ばしにしたりしてしまいがちです。
「お口のにおいが気になる」「歯ブラシをする時に出血する」といった症状や、「子どもの歯並びが心配」などの心配ごとがあっても、頭やお腹が痛いといった症状とは違って、「また今度考えよう」となってしまうケースが多くあります。

◇歯の本数は健康寿命に密接な関係があります
高齢期の残存歯数が健康寿命に密接に関係していること、虫歯や歯周病が全身の生活習慣病に影響をおよぼすことなどが知られていないため、治療に至らずそのまま放置されている現状があります。
多くの口の中のトラブルや疾患は、定期的な歯科受診や毎日の習慣で予防できることが知られています。ぜひ、かかりつけ歯科で定期的な健診をうけましょう。

■歯の健康は健康寿命にも繋がる
下の円グラフは、介護が必要となった主な原因の疾患の割合です。このうち17.6%を認知症、12.5%を転倒が占めています。これら2つの疾患は、歯の状態との関わりがあることがわかってきています。
研究によると、歯が多く残っている人や、歯が少なくても義歯等を入れている人は、歯が少なく義歯を入れていない人と比べて、年齢、治療中の病気や生活習慣などの影響を取り除いても、その後に認知症の発症や転倒する危険性が低いということがわかってきています。

◆歯の健康が失われると認知症や転倒のリスクに
▽介護が必要となった主な原因の構成割合(2019年国民生活基礎調査)

◆歯がほとんど無い人は認知症や転倒のリスクが高い研究結果
▽認知症発症のリスク1.9倍
下のグラフは、65歳以上の健常者を対象に、歯の本数、義歯使用の状況と、認知症と認定された状況を4年間調査した結果です。
グラフを見ると歯がほとんどなく、義歯を使用していない人の認知症発症のリスクが高くなっていることがわかります。

▽歯数・義歯使用と認知症発症との関係

yamamoto et al., Psychosomatic Medicine,2012

▽転倒のリスク2.5 倍
また、同様に65歳以上の健常者で過去1年間転倒経験のない人を対象に、その3年後に歯の本数、義歯使用の状況と、転倒(過去1年間に2回以上の転倒の有無)について調査した結果では、19歯以下で義歯を使用していない人は、20歯以上の歯を有する人と比べて年2回以上の転倒のリスクが2.5倍となっていることがわかっています。