健康 みなさんの健康

◆肝臓について知っておいていただきたいこと
山梨大学医学部附属病院 消化器内科 教授 土屋淳紀

みなさんこんにちは。令和6年11月から山梨大学医学部附属病院消化器内科で教授・診療科長をしております土屋淳紀と申します。今回は、最近の肝臓に関する話題を2つお伝えします。
まずは「C型肝炎ウイルス」についてです。C型肝炎ウイルスは肝炎を起こし高率に慢性化し、日本で最大の肝硬変や肝細胞癌がんの原因でしたが、ウイルスに直接作用して増殖を抑える飲み薬が開発され、現在では患者さんは薬を8~12週間飲み続けることでほぼ副作用もなくほぼ100%に近くウイルスの消失を得ることができます。この薬の登場により多くの患者さんの治療が行われ、多くの人が恩恵を受けました。そして、日本での肝硬変の一番の原因はC型肝炎でしたが、最近の日本肝臓学会の報告では、アルコール(お酒)が肝硬変の最も大きな要因となりました。しかし、もし今までに、C型肝炎ウイルス陽性と言われているけれども治療を受けていないという人がいたら、必ず最寄りの消化器内科医に受診し、治療を受けていただきたいと思います。また、肝炎検査を受けていない人はぜひ一度肝炎検査を受けられることをお勧めします。さらに、C型肝炎の治療を受けウイルスが消失した患者さんも、それで終了ではなく、定期的に肝細胞癌の発生がないか経過観察をしていただきたい点も重要なことです。
次に「脂肪肝と言われている人」についてです。脂肪肝は先にも上げたアルコールも原因になりますが、アルコールを飲まない人でもいわゆる食生活での問題、運動不足などが原因でもなります。脂肪肝の割合は男性が女性より多く、働き盛りの男性の半分弱が脂肪肝の状態です。また、女性では閉経後の50~60歳代に増えてくる特徴があります。脂肪肝は、特に症状があるわけではありませんが、将来に起こりうる病気の前兆という事ができると思います。実際、脂肪肝を持っている人が65歳以上になると、約7割に糖尿病、約6割に高血圧、約5割に高脂血症を伴うというデータが出されています。このようなことを背景に、脂肪肝を持つ患者さんの将来の病気の方向性は大きく3つに分けられます。1つ目は、肝臓が悪くなり、線維化が進み肝硬変や肝細胞癌が出てくる道です。2つ目は、これが一番多いですが心、血管の病気すなわち心筋梗塞や脳梗塞などの病気になる道です。そして3つ目が、肝臓以外の癌例えば女性の乳がん、性別を問わず膵(すい)臓癌、大腸癌などのリスクが上がるといわれています。それでは、脂肪肝と言われている人はどうすればよいでしょうか?既に糖尿病、高血圧、高脂血症として通院されている人は、かかりつけの先生の生活指導・ご加療に従っていただきたいと思います。もし、ALTが30U/L以上で血小板値が常に20万/μLを下回るようであれば肝臓病が進行している可能性が出てきますので更に、消化器内科医の診察を1回は受けていただきそのリスクに応じた経過観察を受けていただければと思います。また、乳がんや大腸癌の発症を早期発見するために自治体検診もしくは人間ドックをしっかり受けていただきたいと思います。まだ、糖尿病、高血圧、高脂血症がない脂肪肝だけという人は、放置されがちなケースが多いですが将来の病気の発症に備えて、生活習慣の改善に取り組む必要があります。今は、10~20歳代と若いうちから脂肪肝がある人も増えています。若いうちから外食を減らしたり、アルコールを含めた暴飲暴食をやめたり、間食を減らしたり、糖分の入った飲料水を避けたり、野菜を増やしたり、それぞれの状態に合わせ運動をし、体重を標準体重に少しでも近づけたり、このような小さな努力が将来の病気の発症予防には実は大切です。

企画:一般財団法人 里仁会