くらし 町長の机から 第二七六回

◆人生100年時代の健幸学
福井県おおい町、大飯原発で有名な町で人口7,900人、面積210平方キロメートル(人口は川辺町より少なく、面積は川辺町の5倍程度)、小浜湾から京都府境に接する町です。おおい町に名田庄(なたしょう)という地域があります。私の世代では、「高石ともやとザ・ナターシャ・セブン」というフォークバンドが住んでいた村として懐かしく思い出します。
この地域におおい町国保名田庄診療所があり、所長の中村伸一先生は、全国国保診療施設協議会の副会長として全国で講演しています。先生が東白川村で講演されたときのタイトルが表題の「人生100年時代の健幸学」というものでした。結論から先に申しますと、この講演会の結論は以下の8点に集約されます。
1.謝る・許すの連鎖が人と地域を幸せにする
2.情けは人の為ならず 地域の絆 健康長寿
3.笑顔が幸せの第一歩
4.ポジティブ:ネガティブ=3:1がベスト
5.感謝することで幸せに(感謝の訪問)
6.強みを活かす(VIA-IS)
7.3つのいいことを挙げる(眠前1週間)
8.将来、愛情を受けるため、今、愛情を注ぐ
講演では8点それぞれ具体的事例を挙げて感動的に、分かりやすくお話いただきました。その中で、6点目のVIA-ISについてご説明いたします。
VIA=ISは「Values in Action Inventory of Strength」の略で、簡単に言えば、「人格的な強みのリスト」を知るためのツールです。これまでの心理学は人々の疾患や症状、弱点や課題など、ネガティブ(な部分)を無くす(減らす)ことに注目していましたが、心の病によりマイナスになった人をゼロに戻すだけでなく、人々が幸せに生きることにも貢献すべきではないか?マイナスからゼロを目指すのみならず、プラスの状態にするにはどんな習慣や活動が役に立つか?について研究を広げたものです。そして、わかったことの一つが、「幸せな人は自分の強みを知っていて、それを使っている」ということでした。「強み」には、スキルや才能、身体能力などがありますが、VIAでは「人格的な強み(キャラクターストレングス)を調べています。また、この強みを知るだけでなく、これまでと異なった新しい方法(環境・状況)で活用することは、「幸福度を高め、同時にうつ症状を改善する」介入だと説明しています。私たちが健康で幸福に暮らすことで、ストレス度は下がり、達成度が向上するという実例も紹介されていました。
中村伸一先生は、海に近く山に囲まれた名田庄に1991年に赴任して以来、30年以上にわたって地域の健康を支えてこられました。WHO憲章では、病気にかかっていてもいなくても、肉体的・精神的・社会的に全て良好な状態であることが“健康”だと定義されています。しかし、決して肉体的に良好といえる状態でなくても自分らしく過ごす患者さんとの出会いを通じ、「健康とは何だろう」と改めて考えるようになったとおっしゃっていました。
名田庄での経験を通じて、病気でもポジティブで前向きに、いきいきと生きている、生きようとしている状態のことを“健幸”とする定義に行き着きました。人生の最後まで前向きに自分らしく生きようとする、それこそ”健幸“だったと言えるのではないでしょうか。
川辺町長 佐藤光宏