くらし ウミガメと共に生きるー地域でつなぐ命ー(1)

御前崎には、地域や学校が力を合わせて守り続けてきた命があります―。
半世紀にわたり続くウミガメの保護と飼育は、自然と共に生きるまちの誇りとして、住民に受け継がれています。

■御前崎とウミガメの関係
御前崎市は、三方を海に囲まれており、遠州灘から駿河湾まで約21キロの海岸線が続いています。毎年初夏を迎えると、砂浜にはたくさんのウミガメが産卵のために上陸します。最盛期には、市内で224頭が産卵し、約1万4千頭がふ化しました。
御前崎の海岸は、多くのウミガメが産卵に訪れる日本の北限地にあたります。昭和55年3月には、学術的に貴重であるということから、上陸するウミガメとその海岸が「御前崎のウミガメ及びその産卵地」として、国の天然記念物に指定されました。
一方、本市に産卵のために訪れる「アカウミガメ」は、世界的に見ても、個体数の減少が著しく、絶滅危惧種として、国際自然保護連合が作成するレッドリストに掲載されています。
そのウミガメの保護を目的に、昭和47年、御前崎町教育委員会は「ウミガメ保護監視員」として2人を委嘱しました。活動は50年経った今でも続いており、延べ32人の監視員が命をつなぐ活動に従事してきました。また、御前崎小学校でもウミガメを知り、守っていくことを目的に、昭和52年から児童によるウミガメの飼育活動が続いています。
※監視員と御前崎小学校は、静岡県知事の許可を得て活動しています。


※昭和56年から平成19年までは御前崎地区のみ計測。平成20年以降は浜岡地区も含めた数値。

■国指定天然記念物「御前崎のウミガメ及びその産卵地」
下岬区と薄原区の海岸の一部が指定されている。他の指定地は徳島県海部郡美波町。国の天然記念物には指定されていないものの、沖縄県や鹿児島県、高知県、宮崎県などでも多くの産卵が確認されている。
※詳細は本紙をご覧ください。

■ウミガメの生態~産卵の仕方~
波打ち際で上陸場所を探して、安全を確かめてから上陸。人影を見つけると海へ帰ってしまう。

左右の後ろ足をシャベルのように使って直径20cm、深さ50cmくらいの穴を掘る。

平均120個の卵を産む。卵はピンポン玉くらいでブヨブヨしている。

「右前足、左後ろ足」「左前足、右後ろ足」というように砂をかける。最後に前足で平泳ぎのようにして砂をかけ、どこに産卵したかわからないようにする。

疲れた体を少し休めては歩き、ゆっくり海に帰る。シーズン中、2~3回産卵する。

■守りつなぐ命
◇ウミガメの命を一つでも多く守る
市教育委員会は現在、8人をウミガメ保護監視員として委嘱しています。
監視員は、5月から8月までの産卵シーズン中、毎朝4時から5時にかけて担当区域を巡視し、砂浜に残るウミガメの足跡から産卵場所を探します。産卵跡を見つけると、高波やキツネなどの外敵の捕食から守るため、卵を掘り起こし、ふ化場(下岬区)に埋め直します。地温が高くなりすぎたり、冷たくなりすぎたりするのを防ぐため、水をかけるなどの管理をしています。卵がふ化するまでには約2カ月間かかり、8月から10月までのふ化シーズンは、早朝の海岸巡視に加え、当番制で朝と夜にふ化場を巡視しています。
本年度は、新たな方法として「自然ふ化」にも取り組みました。ウミガメの性別は、「砂中温度が29度付近を超えるとメスになる」といわれています。同じ場所での卵の管理は、性別が偏る恐れがあるため、15個の巣穴を自然ふ化で見守り、約千頭の子ガメを誕生させました。
ウミガメを取り巻く自然環境は急速に変化しており、近年、世界的に産卵頭数が激減しています。本市も例外ではなく、令和3年度には過去最少の産卵頭数26頭を記録。本年度は、上陸95頭、産卵55頭、ふ化2647頭となっています。
生命の連鎖は、自然の摂理のもとで続いてきたもの。本来は人の手が加わらないことが理想といえます。しかし、監視員の保護活動によって守られた命があることも、確かな事実です。監視員は、ウミガメの命を未来へつないでいくため、国内外から情報を収集し、自然の摂理を尊重した取り組みに挑戦しています。

御前崎市ホームページ「御前崎のウミガメ」
令和7年3月には、本市の保護活動などをまとめた「御前崎市ウミガメ保護マニュアル」を作成しました。

・子ガメ供養祭(5月)
前年度にふ化できなかった卵やすぐに亡くなってしまった子ガメを供養するとともに、本年度の活動の安全を祈念する。

・上陸・産卵確認(5月~8月)
毎朝4時、担当区域を巡視し、ウミガメの足跡を探す。産卵を確認したら卵を掘り起こし、ふ化場へ埋め直す。

・保護活動見学会(7月)
啓発活動として、早朝巡視の見学会を実施。運が良ければウミガメや前日夜から当日朝にかけて産卵された卵と遭遇できるかもしれない。

・ふ化確認(8月~10月)
初産卵から約2カ月後、ふ化シーズンへ入る。朝晩の巡視時にふ化を発見したら海へ放流する。子ガメは、海に向かって一斉に歩みを進める。

・卵の掘り起こし(10月)
無精卵やふ化できなかった卵を掘り起こし、来シーズンに向けてふ化場を整備する。

◇御前崎市ウミガメ保護監視員会
良知 正美代表(塩原)
愛知県から移住後、保護活動に携わり、今年で20年目。

こんな小さな体で大海原を生きていくのか―。初めて子ガメを放流したときのことは忘れられません。
私が監視員になってからの20年間で、ウミガメを取り巻く環境は大きく変わりました。自然が相手なので、私たちの力だけでどうにかできるものではありませんが、できる限りのことを続けていきたいと思っています。
これからは、時代や環境に合わせた活動を考えていく必要があります。今年は自然ふ化に挑戦しました。ふ化した子ガメの中には、街灯の明かりに誘われて海とは反対側に歩いていってしまう個体もいて慌てて救出しました。ウミガメにとってより良い環境を整えていくことも大切だと感じました。
保護活動をもっと多くの人に知ってもらいたいです。命の尊さや環境を守ることの必要性を考えるきっかけになればうれしいです。