くらし ウミガメと共に生きるー地域でつなぐ命ー(2)

■みんなで支えるウミガメの未来
◇ウミガメに迫る脅威
全てのウミガメ類は、「ワシントン条約の附属書I」に掲載され、輸出入が禁止されています。ウミガメの成長はゆっくりで、成熟するまで約40年かかるため、個体数が減ると回復に長い年月を要します。かつては乱獲が脅威でしたが、今では漁業による混獲や海岸開発、砂浜侵食、光害など人の暮らしと関係するさまざまな要因が影響しています。
近年の気候変動も、ウミガメに深刻な影響を与えています。温暖化が進み、砂中温度が高くなるとメスばかりが生まれ、繁殖が難しくなる恐れがあります。砂の温度が上がり過ぎれば、ふ化そのものが難しくなることもあります。さらに、海面上昇によって産卵場所である砂浜が失われる危険性もあります。
協議会では、上陸や産卵の調査を続け、漁業や海岸開発などの関係者と協力しながら、脅威の軽減に取り組んでいます。課題は人・モノ・お金の不足ですが、地域の理解と協力があれば、きっと乗り越えられるはずです。

◇御前崎が育む安全な海岸
御前崎海岸は、海に迫る台地が陰を作っており、暗く静かな環境がウミガメにとって安心できる場所なのだと思います。そして、監視活動や小学校の飼育など、地域ぐるみでウミガメを見守る文化が根付いている。これは全国的にも誇れる取り組みです。
一方で、常に最新の科学的知見を学びながら、動物福祉や自然の摂理を踏まえた活動を考えていく必要があります。本来、人の手を借りずとも自然の中で命をつないできた生き物です。人が「守らなくてもいい状態をつくること」が理想といえるでしょう。

・特定非営利活動法人日本ウミガメ協議会
松沢 慶将 会長
京都大学農学部で水産学を専攻。経験のために始めたウミガメ産卵生態調査と日本ウミガメ会議に集う「ウミガメ屋」たちの魅力にはまる。和文誌「うみがめニュースレター」編集長、国際ウミガメ学会会長などを歴任。

・日本ウミガメ協議会
1990年、日本各地でウミガメの調査に関わる人たちによって設立された。調査・研究結果を基にウミガメやウミガメを取り巻く生態系全体を保全できる効果的な方法を模索している。

■こんなときはどうしたらいい?
ウミガメと遭遇した!
→光で照らさない 静かにその場を離れる
親ガメは特に警戒心が強く、些細な刺激(光や音)で産卵を諦めて、海に帰ってしまう可能性があります。

ウミガメや産卵を見てみたい!
→ウミガメを守るため見に行かないようにしてください
ウミガメはデリケートな生き物です。また、産卵が多い夜の海は暗くて危険を伴うので、見に行かないようにしてください。

足跡や産卵床を見つけた!
→卵を採掘しない
卵の採掘は法律により禁じられており、違反すると罰則対象となります。監視員が保護していますが、万が一発見した場合は社会教育課までご連絡ください。

死んだウミガメを砂浜で見つけた!
→社会教育課へご連絡を
市職員や監視員が現地へ出向き、埋葬します。
社会教育課【電話】0537-29-8735

■育て、学ぶ命の尊さ
◇48年間続く命の教室
御前崎小学校では、児童がウミガメの子ガメを飼育するという全国的に珍しい活動に取り組んでいます。
この活動は、昭和52年に「ウミガメ観察クラブ」として始まりました。発案者は、のちに「ウミガメ先生」と親しまれ、監視員も務めた同校の河原﨑芳郎(かわらざきよしお)先生です。第二次世界大戦の出征を経験し、「生きることの尊さ」を実感していた河原﨑先生。「ウミガメ先生奮闘記―アカウミガメを追って―」(昭和56年発行)には、「安心して産卵できる環境を作りたい。ウミガメを知ることで関心が高まり、ウミガメを守りたい気持ちにつながるはずだ」という思いが記されています。
現在は、「カメ当番」と名を変え、9月に監視員会からふ化したばかりの子ガメを受け入れ、学級の活動として飼育しています。4・5年生合わせて54人の児童によるカメ当番。昼休みになると、当番の児童は運動場横のカメ小屋へ駆け足で向かい、水温や塩分濃度を測ったり、エサを作って食べさせたりします。休日も保護者の協力を得ながら世話をします。
活動は世代を超えて受け継がれ、今年で48年目。6月には、大切に育てた子ガメを両手に抱え、「また帰ってきてね」などと声をかけながら海へ放流します。約9カ月の飼育を通じて、子どもたちの心にはウミガメを守る気持ちや地域への愛着心が育まれています。

◇カメは笑顔にしてくれる大切な存在
御前崎小学校5年生 赤澤 知哉さん(上岬区)
エサをうれしそうに食べてくれる姿がかわいくて、見ているだけで癒されます。でも、ブラッシングは少し苦手なのか足をじたばたさせるので少し苦戦します。
飼育を始めて1カ月ほどですが、最初は黒かった甲羅が少し赤黒くなってきて、「大きくなったなぁ」と成長を感じます。飼育を大変だと思ったことはありません。毎日お世話をしていると、小さな変化にも気付けることがうれしいです。放流するときには、もっと大きく成長しているはず。元気に海へ帰って、強く生きてほしいです。
落ち込んでいるとき、子ガメを見ると自然と笑顔になれます。子ガメは僕たちに元気をくれる大切な存在です。きっと大人になっても、この経験をずっと覚えていると思います。

◇ウミガメの飼育活動は教育の中核
御前崎小学校 田代 久美子校長
教室では子どもらしさを感じる児童ですが、カメ小屋で世話をする姿はグッと大人らしさを感じさせます。自発的かつ自立的な活動の中で、責任感が養われているのだと思います。
放流時には、児童の表情からウミガメの成長へのうれしさと寂しさが入り混じった感情が見られます。生命を大切にする心や海を綺麗にしようとする心、飼育をやり遂げた誇らしさなど、飼育活動で得られるものは、他に代えがたいものです。また、地域や保護者の理解と協力は、48年間の積み重ねで得られた賜物でしょう。
飼育活動は、本校の学校教育の中核を担っています。これからも、学校と地域でオンリーワンのウミガメ飼育活動を続けていきたいと思います。

◇活動の輪は今も続いている
47年前、観察クラブとして飼育 牧野 敏和さん(白羽区)
小学5年生のとき、河原﨑先生とウミガメ観察クラブでウミガメの飼育をしていました。当時の観察クラブは4~5人。放課後のエサやりを忘れて、夕食中に先生から「カメはまだご飯を食べていないよ」と電話がかかってきたことを今でも覚えています。振り返ると、飼育活動の中で自然と命の大切さを学んでいたように思います。
22歳から10年間は先生の誘いで、監視員を務めました。当時の子どもが大人になり、その子どもも飼育活動を経験している。活動の輪が今もつながっており、地域でウミガメや自然環境を守っていることを実感します。47年前の命の学びが、今も形を変えながら受け継がれていることを思うと、とても嬉しく、誇らしい気持ちになります。

■御前崎小学校のウミガメ飼育に協力
・秋野 友美さん ホワイトハウス(牧之原市)
エサや水温の指導、設備メンテナンスなどを支援
・伊村 洋之さん(大山区)
水槽の清掃やエサ作りを支援
・松林 義樹さん(上岬区)
水槽用の海水を市場から運搬
・大石 有佳子さん(上岬区)
水槽清掃を支援
・大澤 真琴さん(大山区)
水槽清掃を支援
・NOK株式会社(牧之原市)
令和7年9月に水槽用のろ過装置を寄付