- 発行日 :
- 自治体名 : 愛知県津島市
- 広報紙名 : 市政のひろば つしま 令和7年7月号
■肺MAC症について
津島市民病院 呼吸器内科部長
村上靖(むらかみやすし)
◇肺MAC症とは?
肺MAC症(はいまっくしょう)は、Mycobacterium avium(まいこばくてりうむ あびうむ)とMycobacterium intracellulare(まいこばくてりうむ いんとらせるらー)という2つの菌によって起こる肺の感染症です。非結核性抗酸菌症とも呼ばれ、結核と同じ「抗酸菌症」の一種ですが、人から人へ感染することはありません。
近年、この病気にかかる人は日本で急増しており、過去20年で患者数は4倍以上に増えたという報告もあります。喫煙や持病の有無に関わらず発症する可能性がある病気であり、誰にとっても他人事ではありません。
◇どんな症状が出るの?
肺MAC症はゆっくりと進行する病気のため、初期には症状が目立ちません。病状進行とともに出てくる主な症状は咳、痰や微熱などであり、風邪と似ているため病院受診が遅れてしまい、診断が遅くなってしまう事もしばしばあります。一部の患者さんは、肺の構造が破壊される事によって息苦しさ、血痰や体重減少などの症状が出現し、最終的に命を落としてしまう事もありえます。
◇どのように診断するのか?
まずは胸部X線やCTなどの画像検査を行い、肺MAC症に特徴的な画像所見の有無を確認します。所見がある患者さんには、喀痰の培養検査や、血液での抗体検査を行うことで、確定診断を行います。これらの検査で診断が確定しない場合は、気管支鏡という「肺の内視鏡検査」や胃液の培養検査が必要になる場合もあります。
◇どのように治療するか?
肺MAC症は症状の進行が緩やかな病気のため、診断を受けた患者さん全員に治療が必要なわけではありません。肺の破壊が進行している、感染している菌の量が多い、自覚症状が強い、免疫力が弱い場合などに治療を行います。自然治癒することは少なく薬物治療が必要で、クラリスロマイシン(またはアジスロマイシン)、エタンブトール、リファンピシンという3種類の抗菌薬を長期間(約2年)飲み続ける事が基本となります。最近では、アリケイス(R)という新しい抗菌薬吸入剤も開発され、治りが悪い患者さんには飲み薬に合わせて使う場合があります。これらの治療薬には一定の副作用がありますが、薬の飲み忘れがあると、抗菌薬が効きにくい「耐性菌」が生まれる可能性があるため、医師の指導のもと根気強く治療を続けることが大切です。
◇日常生活で気をつけたいこと
肺MAC症の予防は難しいですが、日常生活での工夫で感染リスクを減らすことは可能です。肺MAC症の原因菌は水や土壌、浴室などの湿った場所に存在しています。風呂場のシャワーヘッド、排水口や加湿器などは定期的に掃除し、清潔に保ちましょう。ガーデニングなど土壌を扱う場合は、マスクをつけるなど、土埃をなるべく吸わないように注意しましょう。また患者さん自身の体力や免疫力を維持することも重要です。バランスの取れた食事、適度な運動、十分な睡眠を確保し、免疫力を落とさないようにしましょう。
◇おわりに
肺MAC症はゆっくり進行するため、発見が遅れがちですが、早期発見と適切な治療によって進行を抑え、今まで通りの生活を送る事が可能な病気です。咳や痰などの症状が長引く場合は、「ただの風邪」と決めつけず、お近くの医療機関に是非相談してみてください。