くらし [掲載100回目]とよあけ花マルシェコラム

エゴノキ、ウツギ、テイカカズラ、クチナシ、リョウブ…と初夏から真夏に向かって林の樹木に続々と白い花が咲き続けています。これからはクサギ、ヘクソカズラへと白いバトンが受け継がれていきます。「おいおい、臭いとか屁糞(へくそ)とか、なんか下品な流れになってない?」いえいえ、クサギもヘクソカズラもちゃんとした植物名で、それぞれ個性的な花を咲かせるんです。では今回はそのひとつ、クサギについてお話ししましょう。
クサギはシソ科クサギ属に分類される低木で、中国南西部から朝鮮半島にかけての広い範囲および日本に分布しています。『本草和名(ほんそうわみょう)』(918深根輔仁(ふかねのすけひと))の第九巻草下三十五種には「久佐支(くさぎ)」の名称が記されていることから、平安初期には知られていたと考えられています。ただし、この説には疑問があるので、また別の機会にお話ししたいと思います。「それはそうと、どうしてクサギなんて名前になっちゃったのかしら?」それはこの木の葉を揉(も)むとカメムシのような青臭い匂いがするからのようですね。でも、白い花は良い香りなので、花を見かけたらどうぞ近寄って香りを嗅いでみてください。
ネーミングに押されて見落としがちですが、クサギはいろいろ面白いところのある花です。クサギの花は開花1日目には雄蕊(おしべ)が上向きに伸び、先端の花粉は成熟しているのに対し、雌蕊(めしべ)は未熟で受粉できません。2日目になると雄蕊は萎(しお)れて垂れてしまい、逆に雌蕊はピンと上向いて受粉可能な状態になります。そして3日目には花弁と雄蕊は枯れ落ちて、雌蕊だけになってしまいます。「こういうのって前にもなかったっけ〜?」はい、よく覚えていてくれましたね!シュウカイドウやヤツデなど、このコラムでもいくつか紹介してきましたが、このような性質を雄性先熟(ゆうせいせんじゅく)といって、同じ一輪の花の上にある雄蕊と雌蕊が受粉して弱い子孫を作らないようにしています。
クサギの花は暑い間咲き続けますが、夏の終わりごろから実をつけはじめ、夜温が下がりだすとガク弁が濃桃に染まり実は青黒くなります。この色合いはとても美しく、クサギ特有のものです。青黒い実の色素は染色力が高く、草木染に使われます。このほかにも、クサギの葉は古くは食用として保存されたり、クサギの木を炭化して作った黒炭は新嘗祭(にいなめさい)や大嘗祭(だいじょうさい)に供えられる黒酒(くろき)の原料となったり、日本の伝統文化に深く深〜く関わってきた花木なんです。どうか「臭い木」なんて思わず、親しみを持って見てあげてくださいね〜!

執筆/愛知豊明花き流通協同組合 理事長 永田 晶彦

※写真は広報紙38ページをご覧ください。