- 発行日 :
- 自治体名 : 三重県伊賀市
- 広報紙名 : 広報いが 2025年11月号
■森林の役割と林業が抱える課題
伊賀市の約6割を占める森林は、木材生産に加え、水源かん養機能や土砂災害を防ぐ国土保全機能などの多面的な役割を持っています。豪雨災害や地球温暖化を防ぐため、これらの機能を高めることが急務です。このため重要な役割を担うのが、間伐などにより健全な森を育てる林業です。
しかし、林業は深刻な担い手不足と高齢化に直面しています。山の境界を知る人が減り、適切な管理が行き届かない森が増えています。これらの課題を解決し、健全な森を次世代へ引き継いでいくことが、未来の暮らしを守ることにつながります。
今回の特集では、伊賀市の林業に従事する皆さんにお話を伺いました。
■60年間、林業を支え続けて 今思うこと
〜森は一世代ではつくれない。何世代にもわたってつくっていくもの〜
自伐林家
番條 克治さん(74)
小学生の頃から山に親しみ、教員として働きながら約60年間、自らの山を守り続けてきたベテラン自伐林家。
番條さんの地元、坂下地区にある山は、家族総出で苗を植え、何十年もかけて手入れをしてきた大切な場所です。昔はどの家庭でも当たり前のように林業にたずさわり、農業と両立しながら山を守ってきたといいます。冬に炭を焼き、間伐や枝打ちをしたり、夏には稲作の合間に鎌で下草刈りをしたりと、こまめに山の手入れを続けてきました。
長年の経験から、番條さんは間伐の重要性を強く感じています。「間伐をすると木が太く育ち、地面に日光が当たることで下草が生える。それが、土砂崩れなどを防ぐ災害に強い山につながる」と、山を守る知恵を教えてくれます。
「森は一世代ではつくれない。何世代にもわたってつくっていくもの」という言葉には、先人から受け継ぎ、未来へつなぐ森への深い愛情がにじみ出ています。「このままでは、伊賀の山はだめになってしまう」と危機感を抱く番條さん。森林管理のリーダーである「山世話」を各地区に置くなど、地域全体で継続的に林業を守る体制を築くことを願っています。「春は山菜、秋はキノコを合言葉に、多くの人に山に親しんでほしい」と語ってくれました。
■私たちがこれからの林業を支えていきます
〜伊賀市の林業に従事する若手の皆さんに、仕事の魅力を聞きました〜
◇自伐型林家
小倉 丈一郎さん(30)
新潟県出身。農機具メーカー勤務を経て、一次産業への憧れから林業の道へ。独立して3年目の自伐型林家。
山が好きだった小倉さんは、前職で一次産業のたくましさに触れ、全くの未経験で林業の世界へ飛び込みました。各地で技術を磨く中で、山林所有者との信頼関係の重要性を痛感しています。伊賀市で自伐林家との交流が大きな転機となり独立。現在は、その方が管理する山で、道づくりから伐採、出荷まで一貫して担う自伐型林業を実践しています。
仕事の楽しさは、間伐により山に光が差し込み、景色が一変する「山の変化」です。しかし、「何十年もかけて育つ森に比べ、本当のやりがいはまだ先にある」と謙虚に語ります。100年生の木を伐採する際には、先人への思いから手が震えることも。
「林業は、危険で辛い仕事だと思われがちですが、自分のやっている姿を見て、林業が『面白い』と思ってもらえるように活動していきたい」と語る小倉さん。自身の挑戦を通して、未来の担い手へと続く道を切り拓いています。
◇伊賀森林組合
江藤 和史さん(29)
大阪での会社勤めを経て、地元伊賀へUターン。森林施業プランナーとして、森林整備事業に力を注いでいる。
江藤さんは、コロナ渦のキャンプで山の魅力に気づき、「好きな山を仕事にしたい」という思いをきっかけに林業の道に進みました。入社後、森林施業プランナーの資格を取得しました。4年目を迎え、山林所有者と向き合い、集約化施業(※)や境界明確化といった重要な業務に取り組んでいます。
一日中歩く現場の仕事にも慣れ、「山に入ると自然と笑顔になる」という江藤さんのモットーは“安全第一”。林業を守るためにも、安全に帰ることを意識しています。やりがいは、整備によって暗い山に光が差し込み、美しく変わる様子や、山の所有者に喜んでもらえることだそうです。
「放置された森林にはやり方次第で無限の可能性がある」と語る江藤さん。土砂災害を防ぐためにも伊賀市の山を整備し、市民が訪れ、人と自然が共生する場所をめざしています。
(※)複数の山林所有者が所有する森林を取りまとめ、効率的に間伐などの森林施業を実施すること。
◇西垣林業株式会社
三重事業所マルタピア
藤原 愛海さん(21)
高校で林業を専門に学び、業界へ。重機を巧みに操り、木のグレードを見極める市場での仕事に日々向き合っています。
藤原さんは、高校の環境保全コースで林業を学びました。演習林での実習を通して「山に入って環境を守る」仕事に魅力を感じたと言います。新卒で西垣林業(株)に入社し、現在3年目。市場へ運び込まれた材木の荷下ろしや、重機を操作して木のグレードを見極める仕分け作業を担当しています。
仕事で心がけているのは「お客様の木」という意識を持って丁寧に扱うこと。最初は難しかったフォークリフトやグラップルの操作も、今ではすっかり慣れ、お客さんから「うまくなったね!」と声をかけられるのがうれしいそうです。「木材の品質について、今まで見えなかったものが分かるようになるのも、仕事の楽しさの一つ」と言います。
「これからもたくさんの木を市場に出してもらい、市場全体を盛り上げていきたい」と語る藤原さん。同社は男女問わず現場スタッフを募集しているため、彼女に続く若者が増えることを期待しています。
問合せ:未来の山づくり推進室
【電話】41-0934【FAX】22-9715
