くらし 特集 戦後80年、体験者なき戦後の始まりに向かって(1)
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- 発行日 :
- 自治体名 : 京都府舞鶴市
- 広報紙名 : 広報まいづる 2025年4月号 Vol.1070
今年は第二次世界大戦終結後、そして引き揚げ開始から80年という大きな節目の年です。舞鶴市は、戦後13年間にわたり、シベリアや満州、朝鮮半島などから約66万人の引揚者を迎えてきました。心身ともに深く傷ついた引揚者に対して「おかえりなさい」「ご苦労さまでした」と声をかけ、湯茶やふかし芋をふるまうなど、まち全体で温かく迎えた唯一無二のまちです。
しかしながら、時代が流れるにつれ、戦争を体験していない世代が大半を占める中、戦争や引き揚げの歴史は徐々に風化しつつあります。戦争が引き起こしたシベリア抑留や引き揚げといった過酷な歴史を、過去の出来事にするのではなく、後世に語り継ぎ、未来に継承していくことは平和な世界にもつながる大切なことです。
■引揚記念館の設立
戦後40年をきっかけに引揚体験者から、史実を後世に継承するために引揚記念館を建設してほしいとの強い要望が沸き上がりました。「異国で亡くなった人に思いをはせてほしい」「恒久平和を願う」との思いで、建設のための寄付活動も行われ、市内外から多くの寄付が集まり、昭和63年に引揚記念館が開館。シベリアなどで使用していた衣・食・住に関するものや抑留生活の内容などを記した貴重な収蔵資料約1万6,000点の展示を行うなど「平和の尊さ・平和の祈り」を発信する中で、昨年、来館者450万人を突破しました。
■歴史の史実を語り継ぐ
開館の翌年から体験者が、抑留生活や引き揚げ体験などを来館者に伝える「語り部」活動を開始。しかしながら、時代とともに体験者がだんだん減少していることを受け、この歴史を風化させないために「語り部養成講座」を開講し「語り部」が体験者に代わって史実を継承することを目指した取り組みを始めました。
近年では「次世代による引き揚げの史実の継承」にも力を入れており、平成28年には初めて「学生語り部」が誕生しています。今年3月現在では、学生語り部45人を含む123人の語り部が二度と戦争の悲劇を繰り返さないようにとの強い思いを持ち、活動しています。
■学生語り部の活躍
学生語は、館内での案内のほか、市外の学生と交流を行い、より効果的な語りの手法を学ぶなど、スキルアップにも取り組んでいます。
3月23日に東京都で開催した平和記念フォーラムでは、次世代を担う学生語り部がパネリストとなり、活動や継承への思いなどについて、意見交換しました。シベリア抑留や引き揚げの歴史に精通している専門家がアドバイザーやコーディネーターを務め、若い世代に期待することや次世代による史実継承の重要性について議論を深めました。
私たちはこれから、体験者なき戦後の始まりを迎えようとしています。引き揚げのまちとして歴史を風化させることなく、未来に平和の大切さを語り継いでいきます。
■恒久平和の願いを世界に発信
平成27年10月10日、舞鶴市が所蔵する引き揚げ関連資料「舞鶴への生還1945-1956シベリア抑留等日本人の本国への引き揚げの記録」が、ユネスコ世界記憶遺産に登録されました。この資料は、特に希少性が高く、世界的にも重要な資料として、広く世界の人々が共有すべきものとされています。今年は、登録から10周年、そして引き揚げ開始から80周年という節目の年であり、平和のシンボルであるハトと舞鶴の海を描いたシンボルデザインを使い、風化する引き揚げの歴史と恒久平和への願いを舞鶴から世界に向けて広く発信していきます。