くらし 南部町のいきものたち(222)

■キハダカノコ
◇ハチに似てる?
2019年9月17日のこと。鶴田地区で湿地の取材をしていました。小さなピンクの花キツネノゴマを見つけて、「この花も撮り直さなきゃ」とかがんでレンズを向けた時、黄色と黒の縞模様がその草陰からチラッと見えたのです。「ありゃ!ハチかいな?」と一瞬あとずさりしましたが、すぐに危険なものではないことが分かりました。白黒の水玉模様が印象的な蛾の仲間、キハダカノコさん。凶暴なハチの姿に似ることによって、無毒で武器のない虫が少しでも生き残れるようなデザインをまとうことになりました。このような仕組みをベイツ型擬態と呼びます。

◇カノコは鹿子(かのこ)
キツネノゴマにやってきたキハダカノコはせわしく動き回りながら、7ミリほどの花弁に頭を突っ込んで、懸命に蜜を吸おうとしています。蛾も蝶も同じ鱗翅(りんし)目(チョウ目)で、花の蜜を好む種類は多く、いずれも美味しいものと引き換えに受粉の役目を担わされています。観察していると、キハダカノコが羽ばたくたびに、名の由来ともなっている鹿子模様が、草やぶの中でチラチラとかなり目立つのです。よく見ると白い部分は半透明で、向こう側の草が透けて見えます。お腹の雰囲気はほぼスズメバチですが、こんな個性的な翅を持っていると、ハチの擬態効果が薄れてしまいそうですね。

◇カノコガの方が多い?
南部町内には類似種としてカノコガも生息しています。個人的な印象では、どちらかと言えば、町内ではカノコガの方が多くて、キハダの方が少ないような感じです。またキハダカノコは東京では絶滅危惧2.類(VU)、新潟、長野、山梨、宮崎では準絶滅危惧(NT)で、以前よりレッドデータブックに入れた県が増えてしまいました。念のため「キバラ」(黄腹)ではなくて「キハダ」(黄肌)なので、言い間違いに注意ですね。両種とも蝶のように昼活動する蛾なので、みなさんも見かける機会があるかもしれませんよ。

自然観察指導員 桐原真希