- 発行日 :
- 自治体名 : 愛媛県新居浜市
- 広報紙名 : 市政だより「にいはま」 令和8年(2026年)1月号
■芥川賞作家 高瀬隼子さん
日常の小さな違和感や人の感情を丁寧に描く作風で多くの読者を魅了する、本市出身の芥川賞作家・高瀬隼子さん。これまでどんな本と出会い、どのような道のりで小説家になったのか―。昨年11月、図書館で講演会「本との出会い、本のある暮らし」が開かれ、高瀬さんがこれまでの歩みや作品に込めた思いなどを語りました。講演の一部を紹介します。
―本との出会いを教えてください。
小さい頃からずっと本が好き。文字が読めない頃は親に絵本を読んでもらっていたし、平仮名の読み書きができるようになってからは平仮名の本を読んでいました。市立図書館もよく利用していました。
―書くことに興味を持ったのはいつでしょうか。
気付いたら好きになっていた感じです。最初の記録は幼稚園の頃のお絵描き帳。間違いだらけの平仮名で、物語を書いた形跡がありました。オリジナルではなく、「ピノキオ」のパクリみたいな…。完全にオリジナルで書いたのは小学5年生の時。小中学生の物語コンクールに応募しました。その頃に「高瀬」というペンネームを考えて、長らく使っています。読むのも書くのも好きだったので、いつの間にか、「物語を書く人」になりたいと思うようになっていましたね。
―すぐに結果が出ない時期もあったと思いますが、その間、どのように書き続けたのでしょうか。
今37歳なんですが、小説家デビューし、新人賞を受賞したのが31歳の時。小学生からコンクールに応募をしていましたが、どうすれば作家になれるのか、分かっていませんでした。大学で文芸サークルに入ったことで、文芸誌(小説の連載などを行う出版社の雑誌)での掲載を経て、本にしてもらうという流れを知ったんです。大学2年生の時、20歳で初めて文芸誌の新人賞に小説を書いて応募しました。もちろん落選して、その後も毎年1~2作応募しましたが、10年間くらい落選し続けていました。
ただ、応募から結果が出るまで半年くらいかかる。落選したと知ってショックなんですけど、もう次の執筆にかかっているし、大打撃というよりは「ああ、へこむー」みたいな…。そんなことを10年やっていたので、続けられたのかなと思います。苦手なことをする時は頑張るぞと思ってやるけど、小説は何かのモチベーションをエンジンにするというより、毎日当たり前のものとして書いている感じです。
―「おいしいごはんが食べられますように」は、どんな思いで書きましたか。
デビュー前は1人で作品を書いていて、新人賞には10年間落ちていたので、どうせまた誰も読まないんだろうな、何書いてもいいや、くらいの気持ちで書いていました。「おいしい~」は4作目になるので、編集者1人は絶対に読んでくれるという安心感の中で書いた作品になりました。
物語は職場が舞台で、3人の登場人物が出てきます。小説の面白いところは、100%の善人も100%の悪人もいないところだと思っていて。現実にも、自分自身もそうだけど、良いことも悪いこともするし、優しくできる日もあれば八つ当たりする日もある。良い面、悪い面という一面でできているわけではなくて、何なら百面体くらいの存在が人間だと思っています。この登場人物たちも、そうです。
―芥川賞受賞を振り返っていかがですか。
受賞の前年、「水たまりで息をする」が候補になった時の方が驚きました。当時は会社勤めをしていて、帰宅中にその連絡がきたんです。こんなことが自分の人生で起こるのかって、驚いて歩けなくなっちゃって。息を整えてから、初めてタクシーで帰りました。翌年、「おいしい~」の時は、担当編集者も2回目だからと期待してくれていて…。受賞した時は、どちらかというと、ほっとした気持ちがありました。
―原稿に行き詰まることはありますか。そんな時はどんな気分転換をしますか。
原稿に行き詰まるのは毎日です。書けない書けないってずっとパソコンの前で立ったり座ったりして、気付いたら朝になるという繰り返しで…。私ホラー小説が好きなんですけど、余裕がある時は文庫本をお風呂に持ち込んで、半身浴しながら読んでます。すごくすっきりします。
●プロフィル
1988年生まれ。新居浜西高校、立命館大学文学部卒業。2019年、「犬のかたちをしているもの」(集英社)で第43回すばる文学賞を受賞しデビュー。2022年、「おいしいごはんが食べられますように」(講談社)で第167回芥川賞を受賞。その他、「水たまりで息をする」(集英社)、「新しい恋愛」(講談社)などがある。
