くらし FROM ME TO YOU みんなでつないでリレーエッセイ

■葉っぱの木皿に感謝をのせて
加藤 毅(たけし)さん(51)【長田】

私は長田地区で、さまざまな木々を刃物で削り、皿や椀(わん)などを作る木地師をしています。
広島県生まれの私が、大分県湯布院で木地師の修行を経て、長田に移住したのは19年前。振り返ると随分、長い月日が流れたものです。長田は昔ながらの人と自然との関わりや、住民同士のつながりが色濃く残る魅力あふれる里です。例えば、炭焼きやこんにゃく作りなど、現代では希少になった生活文化が脈々と息づいています。一度失われたら取り戻すことが難しい、この里山の景色や文化がたまらなくいとおしいと感じています。木地師という職業も絶滅危惧種といわれているので、なぜかそういうものに惹かれてしまう性分なのです。
私には移住した当初からの夢があります。全国で木工芸による地域ブランドづくりをしていた、師匠・時松辰夫(たつお)の理念を受け継ぎ、「山村クラフト」を内子で実践することです。簡単にいうと、内子ならではの木製食器をデザインすること。しかし、その中には環境や文化、風景など広い意味が含まれており、なかなか「これだ」と思えるものが作れずに長年、悶々(もんもん)としていました。
昨年、近所で目にした柏の葉っぱの形の美しさに感動し、「柏の葉皿」を作りました。完成したときは初めて内子らしい皿ができたと実感。内子のことが「自分事」になってきたからこそ、ようやく納得いくものを作れたのだと思います。まだまだ課題は山積みですが、見守り支えてくれる人たちへの感謝を忘れず、一歩ずつ歩みを進めていきたいです。

次は、太田利栄さん【長田】にお願いします。